2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K12969
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Research Institution | Kyoto Notre Dame University |
Principal Investigator |
木島 菜菜子 京都ノートルダム女子大学, 国際言語文化学部, 講師 (90710418)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 風景描写 / 『大いなる遺産』 / 田舎の表象 / ピクチャレスク / 田園のイングランド / 『二都物語』 / 『アメリカ旅行記』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、これまで十分に研究されてきたとは言えないディケンズの作品における風景についての言及を、作品執筆の意図や作品の主題との関係をも考察しながら、多角的に分析することを目的としている。初年度の令和2年度における研究実績は以下の3点である。 (1) 論文"*American Notes*: Social Evil and Carceral Landscape"において、閉塞感をもたらすアメリカ旅行記の風景描写が、国に内在する悪の比喩となっていることを論じ、またのちの創作、特に小説『大いなる遺産』の風景に与えた影響を考察した。本論文は、論文集*Dickens and the Anatomy of Evil: Sesquicentennial Essays*(松岡光治編、2020年12月刊行、Athena Press)に掲載され、すでに刊行済みである。 (2)書籍『西洋村落譚』(リアリズム文学研究会編、初校作成待ち、堀之内出版)の中の担当章「ジョージ・エリオット、トマス・ハーディと「田園」のイングランド」において、19世紀イギリス文学作品における田舎の描写について論じた。ここではディケンズには言及しなかったが、同時代の文学における風景描写にはピクチャレスク美学への抵抗と共に田園賛美の傾向が見られることを論じており、本稿もディケンズの作品における田舎の表象や田園風景を検討するための足掛かりとなる研究実績と言える。 (3)共著『名作入門シリーズ「大いなる遺産」(仮題)』(佐々木徹監修、初校作成待ち、大阪教育図書)における「独自の研究解説」の中で、『大いなる遺産』の沼地の風景描写には、前作『二都物語』に共通するディケンズの社会的な意図が表現されていることを論じた。(2)と(3)は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により出版が遅れているが、令和3年度中に書籍の形で刊行される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に挙げた全ての項目について、成果物が出版できた(ないしは、原稿は完了しており出版待ちの状態にある)だけでなく、以下の3点の理由により当初の計画以上に進展していると考えている。 (1)上記「研究実績の概要」(2)に挙げた研究のための調査をおこなう中で、ディケンズの作品における田舎の描写を分析する際にも応用可能だと思われる理論的なアプローチを構築することができた。 (2)上記「研究実績の概要」(3)に挙げた研究をおこなう中で、『大いなる遺産』における田舎の描写は、語りの構造とも関連して作品の主題の一つを提示する重要な役割を果たしていることが確認できた。 (3)本研究課題を実施する中で、当初の計画には入れていなかったディケンズの他の作品についての調査と分析を同時におこなうことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、以下の通り進めていく予定である。 ①「現在までの進捗状況」(2)に挙げた内容について、口頭発表をおこなうことで他の研究者からのレビューを受け、論文の形で発表する。 ②「現在までの進捗状況」(3)に挙げた内容については、現在すでに、国内と海外の二つの学会でオンラインでの口頭発表をすることが決まっている。発表の際に受ける予定のレビューをもとに、論文の形で発表できるよう研究を進める。 ③当初の研究実施計画の通り、令和元年度にDickens Society Annual Symposiumで行なった口頭発表の内容に関する現在執筆中の論文を完成させ、国際誌*Dickens Quarterly*に掲載する。 ④当初の研究実施計画では、イギリスでの調査と資料収集、ロンドン大学名誉教授Michael Slaterのレビューを受けることを予定していたが、コロナ・パンデミックの収束が見通せないため海外渡航は取りやめる。
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