2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K12969
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Research Institution | Kyoto Notre Dame University |
Principal Investigator |
木島 菜菜子 京都ノートルダム女子大学, 国際言語文化学部, 講師 (90710418)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 風景描写 / 『大いなる遺産』 / 『二都物語』 / 『ドンビー父子』 / 鉄道 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、これまで十分に研究されてきたとは言えないディケンズの作品における風景についての言及を、作品執筆の意図や作品の主題との関係をも考察しながら、多角的に分析することを目的としている。2年目の令和3年度における研究実績は以下の2点である。 (1) 論文「ディケンズと鉄道再考:魅力、幻影、恐怖」において、小説『ドンビー父子』の中の鉄道からの風景描写は、主人公の思考を外界に投影したものだと言えると同時に、同時代の社会情勢をも描き出したものであり、その点において旅行中も現実から逃避できない主人公の人物像を表現していると論じた。また、それが後の章に描かれる馬車の中から逃亡者が見る風景の描写と対照を成すことを明らかにした。本論文は、『言語文化研究』(2022年3月、京都ノートルダム女子大学刊行)に掲載され、京都ノートルダム女子大学学術リポジトリで公開されている。 (2) 論文 "Developing the ‘lines’: Politically Significant Landscapes in *Great Expectations* and *A Tale of Two Cities*"において、小説『大いなる遺産』と『二都物語』における風景描写を比較検討し、類似した意図を表現した風景描写だと言えると論じた。本論文は、国際雑誌Dickens Quarterly(Dickens Society刊行)に投稿済みで、編集委員の査読結果を待っている状態である。 なお、昨年度の研究実績の概要に記載した、書籍『西洋村落譚』(リアリズム文学研究会編、初校作成待ち、堀之内出版)および『名作入門シリーズ「大いなる遺産」(仮題)』(佐々木徹監修、初校作成待ち、大阪教育図書)の原稿については、どちらも新型コロナウイルスの感染拡大の影響により初校作成が遅れている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況の判断理由は以下の3点である。 (1)上記「研究実績の概要」(2)にある通り、研究実施計画に挙げた項目について、成果物の原稿が完了しており査読結果待ちの状態にある。 (2)上記「研究実績の概要」(1)に記載した論文執筆は、研究実施計画には挙げていなかったが、ディケンズの風景描写の研究を進める過程で一つの成果として論文の形で出版・公開することができた。 (3)当初の計画には入れていなかったが、本研究課題を実施する中で、海外のディケンズ研究者と共同のパネル発表を行うこととなり、その発表のための調査と分析をおこなうことができた。 以上、3点の理由により、本研究課題はおおむね順調に進展していると言えるものの、今年も新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、当初計画していたイギリスでの調査と資料収集および研究内容に関するレヴューを海外の研究者から受けることはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、以下の通り進めていく予定である。 ①「現在までの進捗状況」(3)に挙げた内容について、7月ロンドンで開催される国際学会Dickens Societyにおいてパネルの一人として発表することが決まっている。発表の際に受ける予定のレビューやディスカッション内容をもとに、論文の形で発表できるよう研究を進める。 ②令和3年度に日本英文学会およびDickens Society Annual Symposiumで行なった口頭発表の内容に関する現在執筆中の論文を完成させ、国際誌*Dickens Studies Annual*に掲載する。 ③令和4年度の日本英文学会関西支部大会(12月)において、慫慂発表を行うこととなっているため、発表原稿を作成する。 ④7月の渡英の際、大英図書館での調査と資料収集、ロンドン大学名誉教授Michael Slaterのレビューを受けることを予定している。
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Causes of Carryover |
当該助成金は、令和3年度も新型コロナウイルスの感染状況により海外での調査ができず、旅費が必要なくなったために生じた。次年度は、7月の国際学会が対面で開催される見込みとなり、旅費および持参用のノート型パソコンが必要となるため、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する計画である。
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