2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K13044
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
黄 孝善 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (80828848)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 江戸語終助詞 / 複合助詞 / 承接 / 体系 / 対話調整 |
Outline of Annual Research Achievements |
対話にだけ現れる終助詞は近世江戸語にも見えており、対話のなかで用いられている。近世江戸語には「イ」「エ(ヘ)」「カ」「サ」「ス」「ゼ」「ナ(命令・禁止の「ナ」は除外)」「ノ」「ワ(ハ)」「ヤ」「ヨ」「ネ」という13種類があるが、これらは、対話のなかで用いられる際に、それぞれ単独に用いられるだけでなく、お互いに結合して複合的に用いられるものがある(例、「ワナ」「カヨ」)。また、終助詞が複合的に用いられる際には一定の順序があることが明らかになっている。「カ、ワ、ゾ、ゼ」は一番前に位置するもの(A類)、「ヤ、ヨ、サ、イ、ナ」は前にも後ろにも位置するもの(B類)、一番後ろにだけ位置する「ノ、ネ、エ、ス」に分かれており、互いに複合的に使われる際には「AB」形、「AC」形、「BC」形に承接する。このように複合的に用いられている終助詞は承接順があり、一定の体系を持っているように見える。しかし、江戸語終助詞がなぜこのような承接順による体系は持っているかについては明らかにされていない。本研究の2022年度には、江戸語終助詞が複合的に用いられる際に、A・B・C類の終助詞が順番による承接する理由がそれぞれの終助詞が持つ固有の意味と関係があると思われ、それぞれの終助詞の固有(基本)の意味と終助詞の位置(以下、体系という)関係について明らかにすることを目的としている。そのためには、上記の13種類の終助詞が持つそれぞれの基本的な意味を明らかにする必要がある。しかし、13種類のうち、「カ、ヤ、イ、ノ、ス」5種類の終助詞は基本的な意味が明らかになっていない。そこで、この5種類の終助詞の意味分析から行った上に、終助詞の意味と体系について検討を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度(2020年)から2年目(2021年)の前期までコロナウイルスによる研究の遅れが生じて、それを含め、研究3年目の2022年には、新しい資料や用例を確保するより、既に確保した資料を用いて分析や検討を行うのが最善であると判断して研究を進めた。 まず、まだ基本的な意味が明らかにされていない「カ」「ヤ」「イ」「ノ」「ス」の意味も用例の数は少ないが確保されているものから検討を行い、その意味を明らかにした。その後に、すでに基本的な意味が明らかにされている「ワ」「ゾ」「ゼ」「ヨ」「サ」「ナ」「ネ」「エ」の終助詞と一緒に用いて、これらの終助詞は複合的に用いられる際に見える承接順による体系と基本的な意味について検討を行った。その結果、承接順による江戸語終助詞の体系は、一部修正が行われて、意味から見た江戸語終助詞の体系が完成された。また、体系のなかでのA類(カ、ゾ、ワ、ゼ)、B類(ヤ、ヨ、イ、サ、ス)、C類(ナ、ノ、ネ、エ)のそれぞれの類の共通意味も明らかにした。 以上の結果をまとめて、現在、東北大学国語学の「国語学研究」に投稿し、査読を通して校正に進んでいる状態である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今までの研究は、江戸語終助詞が持つそれぞれの基本的な意味を明らかにすることと終助詞が複合的に用いられる際にお互いに承接するときの体系(A・B・C類)、また、その体系と終助詞の基本的な意味との関係を明らかにしてきた。 終助詞は対話だけに現れる特徴がある。現代語終助詞の研究のなかで片桐添弘(1995)「終助詞による対話調整」『月刊言語』24-11、大修館書店では対話を行うときに対話を維持するための「対話調整」を行うものであるとしているが、江戸語終助詞の「ネ」と「ヨ」にも同じく対話調整を行っているように思われてその「対話調整」機能があるように思われる。また、その対話調整の機能は「ネ」「ヨ」だけでなく他の終助詞にもあるだろうと予想できる。 そこで、今後の研究では、対話のなかで江戸語終助詞による「対話調整」の機能について検討を詳しく行っていく。その際に、終助詞の体系との関連性を中心にして、終助詞の体系が対話のなかでどのような機能をしているかについて検討していく。そして、その結果を論文化に進めていきたい。
|
Causes of Carryover |
研究初年度(2020年)から研究1年度の前期まで約1年半の間にコロナウイルスの影響で研究が進んでいなかった。研究が本格に始まったのは研究2年度の後期からだが、本来の3年間の期間が1年半という半分しか残っていなかった。そこで、研究最終年度(2022年)以内に研究を進めるために資料の購入や用例などの収集を中止、出張やアルバイト雇用も中止し、すでに確保していたもので研究を進めていたため、次年度使用格が生じたのである。 ところが、研究が1年延長となり、研究の最終目的である終助詞の対話機能について研究が進められる。そのために、最近行われている終助詞の研究や書籍の購入、研究に必要な消耗品の購入、関連データの分析などの費用に使う。
|