2021 Fiscal Year Research-status Report
無意志自動詞を出自とする日本語可能表現の歴史的研究―「自発」と「可能」―
Project/Area Number |
20K13045
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
三宅 俊浩 宇都宮大学, 共同教育学部, 助教 (20777354)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自発 / 可能 / 適う / 叶う / 和漢混交文 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、自発形式由来とされる可能形式のうち、カナフ(叶う/適う)の歴史記述を行い、査読付き学会誌に掲載された(京都大学国語国文学会編集、臨川書店刊『国語国文』90巻11号)。中古以前には「心に」「思ふ」のいずれかまたはいずれも伴う範囲で具体的動作の(非)実現を表していたカナフが、中世前期にはその制約を離れ、可能形式として自由に振舞えるようになっていることを示した。また現代語のデキルやカナフでは認められない格体制をとる用例、具体的には動作名詞がニ格に立つ用例(行歩にカナフ≒行歩ができる)が中世前期に認められるが、これが変体漢文由来の語法であること、動作名詞ガカナフと動作名詞ニカナフの競合の結果前者に統一されたこと、その背景にはニ格を取る用例がカナフ全体で衰退していったことが関係しているとの見方を示した。文体的対立を踏まえることで説明が可能になった事例と位置付けられる。 調査結果に基づけば、カナフは元来「二者の合致」を表していたと言える。これは、出現当初の格助詞ニとの共起率が高いこと、すなわちカナフがとる元来の格体制は「AがBにカナフ」であったことを意味する。カナフが可能形式化するに際しては、この「二者の合致」が「動作が、動作主の望んでいる事態と合致」の範囲まで表わせるようになり、可能表現と意識されるようになる過程を経たと考えられる。 その他、上に簡略に記したように、中世前期には和漢混交文体からの影響により成立・衰退した表現もあることが見いだされ、異なる文体間における可能形式の様相記述にも展開し得る可能性が指摘できる。 中世前期以降、次第にニ格との共起率が減少していく変化も確認された。こうした変化は後に可能表現化するナルとの交替要因の一つにもなり得たかと思われるが、まだ実証には至っておらず、これについては最終年度(次年度)に積み残された課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はカナフ・ナル・デキルの3語の歴史が中心課題となる。本年度はカナフの歴史を記述することができ、また近世以降のデキルについても論文化し、論文集原稿を提出した(2022年12月刊行予定)。概ね順調に進展していると考えられる。一方、ナルの歴史については当為表現(ネバナラヌ類)との関係も視野に入れなければならず、当初の予想よりも問題が複雑で、予定通りとは言い難い。次年度はナルの歴史記述を中心に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は早急にナルの歴史記述を行う。用例の収集はすでに済んでおり、分析に移るための準備は整っている。着目点について、特にカナフの歴史では成果が出ているので、カナフとの歴史的な関係に目を配りつつ、ナルの可能形式化の道筋や、可能の中でもどのような可能を表すことができるのか、といった点を重視して分析をしていく。
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Causes of Carryover |
2021年度末にフィールドワークがあり、それに現地清算金額がいくら必要か正確な把握が難しかったため。ただし、約103万円の予算で残額がわずか1,241円であるため、ほぼ計画通りに支出を行ったと言ってよいと思われる。
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Research Products
(3 results)