2020 Fiscal Year Research-status Report
万歳唱和の新研究――東アジア礼制比較史研究の総合化に向けて
Project/Area Number |
20K13156
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三田 辰彦 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (00645814)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 万歳唱和 / 礼制 / 漢-唐 / 東アジア / 比較史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、中国古代の諸儀礼における万歳唱和という所作が、いかに一つの型をなすようになり、当時の人々の心性といかなる関連性をもつのかを解明することである。この課題遂行を通して、東アジア礼制比較史研究の総合化の促進を目指す。 当該年度は、万歳唱和に関する記録の網羅的収集に徹した。当初は、諸儀礼にみえる万歳唱和の位置づけに関する史料を優先的に分析し、途中経過を報告する算段であった。だがCOVID-19の世界的流行に伴い、国内でも緊急事態宣言が出されるなど、報告の場がいかに担保されるか先の読めない状況であった。そこで順序を変更し、儀礼関連も含めて万歳唱和に関する記録を広く収集することに専念した。範囲は正史、類書(北堂書鈔、藝文類聚、初学記、太平広記、太平御覧)に加え、諸子百家、政典(通典、文献通考ほか5種)、唐宋の随筆雑記(唐宋史料筆記叢刊、全宋筆記所収)に及んだ。幸いに中国・台湾では基本史料の電子テキスト化が飛躍的に向上しており、利用版本を明示したものも少なくなかった。そのため、人的接触回避の観点から在宅ワークの時間が多かった状況下でも、一定の精度を保った記録を当初の計画以上に網羅的に収集できた。これは望外の成果であった。 史料収集の過程で、万歳唱和に関する前近代中国の考証も検出できた。特に宋代では少なくとも5種の随筆雑記から確認できる。現在分析した範囲で言えば、人臣に対して万歳を唱和した過去の事例への違和感が、考証の趣意としてある程度共通していると思しい。この点は清朝の考証学者顧炎武の『日知録』でも確認できる。以上の基礎作業を通して〈人臣に対する万歳唱和への違和感〉という新たな分析視座を得たのも、今後の研究に一つの筋道を与える示唆的な成果であった。上記の各種考証については考察を進めており、次年度以降に公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、COVID-19の感染防止策として所属先の設定した行動指針(BCP)に従いながら研究を遂行した。その結果、おのずと研究施設の利用には一定の制限が伴った。ただ、研究実績の概要でも述べた通り、その中で研究の足掛かりとなる大量の史料群を収集できたのは成果として小さくない。また出張制限のある中でも、本研究課題と関連する研究会(東アジア后位比較史研究会)にオンラインで参加し、日本史・朝鮮史の研究者と交流を深め、リモートで比較史研究の場を構築するノウハウを蓄積し続けている。2020年6月には当研究会で朝鮮王朝の儀礼書『国朝五礼儀』の訳注を担当するなど、訳注作成のノウハウも実践的に獲得してきた。いずれも次年度以降に研究成果の公表を実現するための資産となるものであり、次に繋がる成果を地道にあげることができたと言えよう。 しかしながら当該年度内には具体的な成果として公表できなかった点を勘案し、最終的に「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の成果を踏まえ、まずは万歳唱和に関する前近代中国の考証文献の分析を完成させる。また初年度で得た新たな分析視座をもとに、収集史料の整理分類を進めたい。一方、儀礼の場における万歳唱和の位置づけについては研究遂行の順序を後回しにしたが、第2年度では体系的に儀礼の式次第を記録している『大唐開元礼』から万歳唱和の確認できる儀礼の分析を進め、唐以前の儀礼の事例との対比を行いたい。 研究を遂行する上での課題となるのは、COVID-19流行下における学術交流会での成果公表である。国内については学会・研究会運営のノウハウが2020年度の1年で蓄積されたと見込まれる。よって、参加に際しての支障は概ねないであろう。一方、海外については、現地での直接対面による交流は依然として難しいと予想される。そこで以前から学術交流のあった中国・台湾の研究者と協議し、同世代の研究者が交流できる場をSNSなどによって設ける準備を進めている。このように従来とは異なる新たな形での学術交流を試みたい。
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Remarks |
本研究課題に関連する研究会での報告として、『国朝五礼儀』巻三 嘉礼 冊妃儀(第36回東アジア后位比較史研究会、2020年6月22日)がある。
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