2021 Fiscal Year Research-status Report
近代朝鮮における「婦人」の形成プロセスと女子中等教育
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20K13162
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
崔 誠姫 中央大学, 政策文化総合研究所, 客員研究員 (10867592)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 朝鮮史 / 植民地教育 / 中等教育 / 近代女子教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.2021年8月、昨年度に引き続き桃山学院大学学院資料室にて、柳原吉兵衛資料の追加調査を実施した。今回の調査では奈良女子高等師範学校の朝鮮人女子留学生から、柳原宛に送られた書簡を中心に収集した。朝鮮人女子留学生は柳原に近況報告だけではなく、家計状況の急変による学資金援助の依頼、卒業後母校に教員として赴任できるよう便宜を図ってほしい等、様々な「お願い」を柳原宛の書簡に記していた。これら書簡資料からは単なる支援者と留学生という関係以上のものがあったことがわかった。留学生達は朝鮮に戻り、「婦人」の規範として主に教員職に就き、次世代の帝国「婦人」を養成した。柳原との関係は「婦人」を形成する中等教育によってもたらされたものであり、その影響は計り知れない。そのほか、アジアのジェンダー史関連の書籍を収集し、同時代の「婦人」史についての知見を深めた。
2.本研究課題に関連し、「総論に代えて―朝鮮の家事・裁縫教育―」(『歴史評論』857号、2021年9月)を発表した。この論考は特集/帝国日本の植民地教育―被支配民族教育を中心に―によるもので、「外地」における初中等教育の概観に加え、朝鮮の女子高等普通学校で行われた家事・裁縫教育について、教員の対応・教科教育の内容・生徒の反応について分析した。また、2021年12月にはジェンダー史学会自由論題発表でこれまで収集した柳原資料をもとに、「奈良女子高等師範学校の朝鮮人留学生」について報告した。柳原資料から明らかになった、奈良女子高等師範学校への入学斡旋、卒業後の朝鮮人留学生の動向について発表した。
3.柳原吉兵衛資料中の崩し字資料については翻刻作業を行い、日本近代史専攻の大学院生の協力を得て校正作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.コロナ禍でありながらも、可能な限り国内調査を実施し、特に桃山学院大学史料室での調査では新たな史料を発掘することができた。まだ翻刻を終えていない書簡資料についても、引き続き作業を進めている。4月11日には韓国慶北大学校歴史文化アーカイブ研究センターコロキウムにおいて、1930年代の朝鮮における女子教育の特徴について発表し、韓国の研究者ともオンライン上での交流を深めた。また、現在、昨年12月のジェンダー史学会発表内容をもとにした論文を、韓国の学会誌へ投稿するため準備を進めている。5月末には論文を投稿する予定である。7月には東アジア近代史学会にて、朝鮮の女子教育の拡充と生徒の活動についての発表を行う予定であり、現在発表に使用する資料の精査を行っている。
2.これまで収集してきた資料の整理、分析、さらに関連分野となる近代日本や台湾のジェンダー史、教育史に関連する文献を講読し、周辺領域の知見を深めている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.本年4月より大阪に転居したため、桃山学院大学学院資料室へのアクセスが容易となった。そのメリットを活かし、引き続き柳原吉兵衛資料の収集を進めていく。加えてコロナによる入館制限が撤廃されたため、奈良女子大学所蔵の奈良女子高等師範学校関連資料についても収集が可能となった。今年度はこの資料を重点的に集めていきたいと考えている。
2.コロナの状況を見ながらではあるが、可能ならば韓国へ行き現地調査を行いたいと考えている。進捗状況で触れた慶北大学校歴史文化アーカイブ研究センターは大邱市にあり、大邱の女子高等普通学校から奈良女子高等師範学校へは毎年2~3名が留学していた。そのため現地調査を行うことにより、新たな資料が発掘可能と考えられる。現地調査が難しいようであれば、オンラインでの研究打合せ等を通じて情報を収集する計画である。
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Causes of Carryover |
2021年4月開催予定のヨーロッパ韓国学会へ参加を予定し、その旅費を計上していたが、コロナにより開催が10月に延期となり、またこの状況での海外出国が困難であったため、その旅費分が未使用となった。
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