2020 Fiscal Year Research-status Report
日本の近代官僚制度下における台湾総督府医学系官僚に関する包括的研究
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20K13185
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
鈴木 哲造 中京大学, 社会科学研究所, 研究員 (10771123)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 官僚制 / 医学系官僚 / 学歴主義 / 学閥主義 / 台湾総督府 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の近代官僚制の特徴である「学歴主義」と「学閥主義」及び「前例主義」という観点から、「植民地官僚」論を問い直すものである。「植民地官僚」論は、被支配者(台湾人・朝鮮人)への任官・昇給時の差別待遇と被支配者の官僚機構からの排除を強調する。しかし、日本の近代官僚制は、民族的観点から差別待遇や排除を「制度化」したわけではなく、「学歴主義」と「学閥主義」及び「前例主義」を根幹的な論理として展開した。これらの論理が顕著に見いだせるのが、台湾総督府における医学系官僚の人事である。本研究の目的は、この台湾総督府医学系官僚の人事に作用する学歴と学閥の法則性と前例の積み重ねによる「慣行」を解明することを通じて、日本の近代官僚制の特徴を個別具体的に実証するとともに、「植民地官僚」論を再考することにある。 本研究は、上述の目的を達成するため、「総督府医学系官僚が所属する組織の成り立ち・変遷・人的構造」と、「総督府医学系官僚の人事と経歴」という二つの側面から分析を進める。2020年度においては、主として次の3つの課題に焦点をあてて研究を実施した。すなわち、①台湾総督府医院の設置及び拡張の過程と人的構造、②ペスト防遏を目的として台湾総督府に特設された「臨時防疫課」の設立過程及び同課に配属された防疫事務官及び防疫医官の人的構造、③帝国崩壊後における台湾や朝鮮等のいわゆる「外地」で付与された医師免許と歯科医師免許を有する引揚医師・歯科医師の資格認定問題、である。③は医学系官僚の経歴にとって重要な資格である医師免許・歯科医師免許の取得に関連する課題である。①については『台湾総督府医院年報』を編集・刊行した際の「解題」により、③については学会発表により研究成果を公表し、②については、学会の機関誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたとおり、本研究の目的は、①「総督府医学系官僚が所属する組織の成り立ち・変遷・人的構造」と、②「総督府医学系官僚の人事と経歴」に着目して、台湾総督府医学系官僚の人事に作用する学歴と学閥の法則性と前例の積み重ねによる「慣行」を解明することにある。①に着目するのは、総督府医学系官僚の就いている職位の価値を理解するには、当該組織が如何なる権限を持ち、如何なる職務を担い、如何なる人材を求め、かつ当人が如何なる待遇を受けていたのかを明らかにする必要があるからである。2020年度においては、医学系官僚の所属組織たる台湾総督府医院と台湾総督府臨時防疫課の設置過程及び人的構造等について研究を進めた。 ②においては、各組織に所属する医学系官僚の学歴、総督府赴任前の職歴、任用から昇等・昇給に至る過程、転官先または退官後の進路を調査・分析する。2020年度においては、外地からの引揚医師・歯科医師の資格認定問題を検討したほか、『台湾総督府及所属官署職員録』を基にして、医学系官僚のリスト化を進めると同時に、『日本医籍録』や『大日本博士録』等の人士録及び『台湾総督府文書』(国史館台湾文献館所蔵)所収の人事関連文書の収集を行った。これらの資料を用いて、2021年度においては、医学系官僚の「学歴」・「職歴」・「学閥」の分析を実施する。 なお、本研究を進めるにあたっては、国内機関(国立国会図書館・国立公文書館・東京大学医学部図書館等)及び台湾機関(国立台湾図書館・国立台湾大学図書館・中央研究院図書館・国史館台湾文献館等)において関連資料の調査・収集を行う予定であった。しかしながら、新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延のため、2020年度は国内及び台湾調査を実施できなかった。このため、国内及び台湾の諸機関が提供するデジタルアーカイブを活用することで、可能な限り、資料の収集にあたった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究計画は次のとおりである。①『台湾総督府及所属官署職員録』等を利用して、年度毎(1895年~1945年)・組織毎に当該官職に就いている医学系官僚のリストを完成させる。②国立公文書館や国史館台湾文献館等の国内外の文書館・史料館の提供するデジタルアーカイブを利用して、医学系官僚の所属する組織(台湾総督府及び地方庁の衛生行政部門、台湾総督府医学校や台北帝国大学医学部等の医学教育機関、総督府研究所等の研究機関、公医、海港検疫所)と人事に関する文書を収集する。③国会図書館や国立台湾図書館等の国内外の図書館が提供するデジタルアーカイブを利用して、関連する文献、新聞、雑誌記事を収集する。④収集した資料に基づき、医学系官僚の所属する組織の成り立ち・変遷・人的構造の分析を進めるとともに、医学系官僚の「学歴」・「職歴」・「学閥」の特色を把握するためのデータベースを作成する。⑤研究成果を学会発表や論文投稿を通じて公表する。 新型コロナウィルス感染症の動静については予断を許さない状況にある。2021年度においても2020年度と同様に、日本及び台湾における文書館・史料館・図書館が提供するデジタルアーカイブを活用して、オンラインでの資料収集を実施する。感染症の動静を見極めて、適宜、国内外の文書館・史料館・図書館(国立国会図書館・国立公文書館・東京大学医学部図書館・国立台湾図書館・国立台湾大学図書館・中央研究院図書館・国史館台湾文献館等)に赴き、現地調査を実施する。
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Causes of Carryover |
本研究は、国内及び台湾の文書館・史料館・図書館等における資料調査・収集を行うための旅費を計上している。だが、本年度は、新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延により、国内調査及び台湾調査を実施することができなかった。これにより、旅費のほか、国内及び台湾における調査に使用するためのデジタルカメラ及びその附属機器の購入費と、収集した資料の整理等のためのアルバイトの人件費も執行することができなかった。新型コロナウィルス感染症の動静は予断を許さない状況にあるが、状況の推移を見計らって、本年度においては国内及び台湾における現地調査を実施したい。現地調査が実施できない場合は、本研究遂行上で必要となる人士録等の資料集の購入費用に充当したい。
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