2020 Fiscal Year Research-status Report
Government of the seventeenth-century eastern suburbs of London through the coordination of the authorities
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20K13222
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
菅原 未宇 東海大学, 文学部, 准教授 (10645310)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ポリス / 都市統治 / 中間層 / 災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、その統治についてこれまで本格的研究がなされてこなかったロンドンの東部郊外を対象に、地域住民とロンドン市の諸団体による貧困や災害といった様々な問題への対処を分析することで、統治の具体相とその変化について明らかにすることを目的とする。令和2年度は、当該時期のロンドン市政の二大機関であった市参事会と市議会の関係について追究し、災害対応に際して両者の見解に相違が生じたことを1666年のロンドン大火復興期の史料の分析から解明した。統治の実践に際し権力間の協働が常に円滑であったわけではないことを示す重要な成果と言える。その成果の一部は、「災害の歴史化の虚実」と題した講演会におけるオンライン講演「誰が災害を語るのか?~ロンドン大火の叙述をめぐる混乱」で、広範な聴衆に発信した。また、ロンドン市政に携わる要職であったロンドン市の法律顧問官について、遺言書を主要史料としてプロソポグラフィ分析を進めた。その結果、少なくとも本研究課題の対象時期の開始時点である17世紀初めにおいて、法律顧問官が市参事会や市議会と連携しつつそれらのメンバーよりも広域で業務を行っていたことを明らかにした。市内だけでなく郊外にも拠点を構えた元法律顧問官の存在も発見した。これら研究成果を『東海史学』第55号掲載の論文「16世紀ロンドン市の法律顧問官」として公刊した。法律顧問官が、郊外統治において市内外の諸権力を繋ぐ媒介的役割を果たした可能性を示唆する成果であり、本研究課題が対象とする17世紀を通じて法律顧問官の果たすそうした役割が維持されたのか、その具体的な活動や変化に関して令和3年度では検討していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、次の三つの段階を設定している。第一に、ロンドンの東部郊外を管掌する諸権力について、その構造を把握することである。第二に、諸権力を担う人物の詳細について史料に基づき可能な限り再構成し、複数の権力を繋ぐ媒介者の存在を明らかにすることである。第三に、それら媒介者の活動を追究することで、どのような状況で権力間の協働あるいは対立が生じるのか、時系列的な変化も意識しつつ動的に分析することである。このうち、一点目については、本研究代表者の予備的調査および令和2年度中に収集した文献の調査によりおおむね確定できた。二点目に関しては、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大のため、イギリスで史料収集・調査ができなかったことは誤算であったが、代わりに、英国公文書館が提供する電子化された史料であるカンタベリ大主教管区裁判所検認遺言書の収集と分析を進めた。その結果、17世紀初めまでの法律顧問官については分析を完了し、論文として公刊できた。三点目については、1666年のロンドン大火後に市参事会と市議会の意見に齟齬があったことを、日本で入手可能な刊行史料、マイクロ化およびデジタル化された史料から析出し、その成果の一部はオンライン講演「誰が災害を語るのか?~ロンドン大火の叙述をめぐる混乱」で発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度前半は、引き続き英国公文書館が電子的に提供するカンタベリ大主教管区裁判所検認遺言書の収集と分析を行い、17世紀ロンドンの東部郊外の統治に関わった人物の詳細について可能な限り再構成していく。年度後半に渡英が可能となった場合は、それらの人物の情報や活動内容について、現地の電子化されていない史料の収集、分析を通じて、さらに精緻に把握する。年度中の海外調査が困難な場合は、そのほかの電子化された史料の中に本研究課題に適するものがあれば、その収集と分析を進めることと、国内の大学図書館が所蔵するマイクロ史料の収集、分析を進めることとしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、計画していた海外調査が出来なかったこと、予定していた研究員を雇用したデータベース構築をする環境が整わなかったことにより、次年度使用額が生じた。次年度請求分と合わせ、海外調査のための費用として主に用いる。
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Research Products
(3 results)