2020 Fiscal Year Research-status Report
Writing Women in Medieval Europe: Intellectual Activity and Text Production in Helfta
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20K13223
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
三浦 麻美 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (40814893)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歴史 / ヨーロッパ / 中世 / ジェンダー / リテラシー / キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はヘルフタ修道院で作成されたハッケボルンのメヒティルト『特別な恩寵の書』、ヘルフタのゲルトルート『神の愛の使者』の分析を行い、女性の共同体である女子修道院における記録の意義を考察することで、テクスト内容が修道院の置かれた社会的状況を反映していること、修道女たちが記憶の継承という役割に注目して、執筆という手段を戦略的に用いていた様子を明らかにした。 『特別な恩寵の書』については2020年12月に論文「呪詛ではなく祝福を」を刊行し、修道院に残っていた寄進や権利確認の証書から再構成した社会状況と神秘主義テクストにおける幻視を関連付け、埋葬と救済をめぐる言説の中で、聖職者として叙階されていない修道女が一定の宗教的権威として認められていた実態を提示した。この権威の源となったのが幻視を通じた天国での救済の保証であり、その記録を通じて修道院のパトロンを典礼暦に組み込み、支援関係の強化・維持を図ったと考えられる。 『神の愛の使者』については、幻視者本人とその体験を聞き取った記録者としての修道女の記述に見られる共同体認識、執筆をめぐる知的権威の定義の差異に注目し、それぞれ「ヘルフタのゲルトルートー女子修道院における執筆活動の意味ー」「ヘルフタのゲルトルートー聖なる共同体の変質ー」で2回の学会報告を行った。 これら刊行史料のテクストを先行研究とは異なる観点から詳細に分析することで、中世ヨーロッパで女性の知的活動は脅威とみなされていたが、修道女たちは神学論文や討論といった男性聖職者とは異なる形で執筆活動を継続し、宗教的のみならず経済的利益をも得ていたことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの流行により、2020年9月に開催予定だった国際学会"Love in Religion: Three Helfta Visionaries"が2021年9月に延期となり、その後開催中止が決定した。この学会については主催者よりオンライン等の代替手段による開催を検討している旨の連絡が来ているが、開催は2022年以降になる可能性が高いとのことである。 また、同じく新型コロナウイルスの流行により海外渡航が制限されているため、予定していたヘルフタ修道院での現地調査ならびに海外文献調査実施が不可能となった。予定していた文献調査は写本を対象としているため、直接現地に赴くことが望ましいが、海外渡航が不可能な事態が継続する場合は所蔵図書館にデジタル化の依頼を行うことも選択肢として考えている。ただし、調査対象国であるドイツは現在ロックダウンが長期化しており、2021年5月までは図書館のサービスも縮小しているため、これ以降に調査方法について再度検討する。以上の理由により、写本の調査を通じたテクスト受容の実態解明の研究に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の成果をもとに、ヘルフタ修道院で作成された神秘主義テクストにおける執筆の意義をめぐる記述の分析から、作者であった修道女たちの神学思想を歴史的文脈の中に位置付けることを目的とする。具体的には、ヘルフタのゲルトルート『神の愛の使者』における、サン・ヴィクトル学派の影響解明を行い、成果を学会報告、論文刊行を通じて公表する予定である。ヘルフタ修道院は幻視で知られているため、同じく神秘主義的な傾向をもつクレルヴォーのベルナルドゥスの影響が強調されがちだが、聖書の解釈やリテラシーをめぐる教育的部分では、パリのサン・ヴィクトル学派の著作にもとづいていることが指摘されている。12世紀に登場したこの学派は、托鉢修道会が間もなく急成長したために長く見過ごされてきたが、近年はその思想が従来の想定よりも広く浸透していたことが明らかになっている。この点を踏まえて調査を行い、中世ヨーロッパにおける思想ネットワークの新たな一端を解明し、そこに女性思想家たちを組み込むことを目指す。 また、ハッケボルンのメヒティルト『特別な恩寵の書』に関して、前年度中止となった"Love in Religion"に代わり"The Cistercian Worlds"で研究報告を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は国際学会参加と報告、海外文献調査のために費用を請求したが、新型コロナウイルス感染症の流行によりこれら全てが実行不可能となったため、次年度使用額が生じた。 これらの助成金については、2021年度に研究報告を行う国際学会の参加費用ならびに海外文献調査(もしくはレファレンスサービスの利用)、図書購入費として使用する予定である。
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