2021 Fiscal Year Research-status Report
DNA配列解析による和紙繊維分析方法の開発-ITS領域の比較
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20K13245
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
田口 智子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 研究員 (90755472)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 和紙 / DNA解析 / ITS領域 / 繊維分析 / 文化財 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、より客観的で簡便な和紙の繊維同定方法の開発のために、ITS領域を使用した各和紙のDNA塩基配列を比較するための研究を進めている。本年度は、植物のゲノムDNA調製のために数種類のキットを使用してDNA抽出の効率を比較する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行のため実験室の使用制限が生じた。そこで、前年度に入手済みの比較的短時間で実験が可能である非常に簡便なDNA調製キットを使用してゲノム抽出を試みた。今回使用したキットは、約10分でPCRテンプレートが調製できるスタンダードなDNA調製試薬である。これまでは、それぞれの和紙をメスで細かく裁断していたが、抽出効率が悪かったため、今回は各和紙を手で裂いた後、ピンセットで繊維を慎重に抜き取ったものをサンプルとした。プロトコールに従い各DNAを抽出した後、申請書に記載の各プライマー対を使用してPCRを行った。PCRはKOD One(R)PCR Master Mix (TOYOBO)を使用し、ターゲットは約300bpと推定されるため、伸長時間は1秒に設定した。 PCR産物を電気泳動してバンドの有無を確認すると、ガンピ及びコウゾから抽出したDNAを鋳型としたサンプルでは薄いながらも増幅が確認されたが、ミツマタはまったく増幅されていなかった。ガンピ及びコウゾのPCRサンプルを精製し、シーケンス解析した結果、ガンピ由来のサンプルではその配列が判明した。しかし、コウゾ由来のものは複数の波形が重なり、検討の余地があった。これまでガンピではITS領域のシーケンス報告がないので、今回の研究結果は新たな知見となる。またその配列をBLAST検索したところ、既報のコウゾ及びミツマタのITS領域配列とはかなり異なっていたため、ITS領域のDNA配列を用いて和紙の種類を判別する方法が利用できる可能性が高まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響により、実験室の使用制限が生じ、当初の実験計画から変更が発生したが、各和紙からの簡便なDNA抽出、ガンピ及びコウゾのPCR増幅及びガンピのシーケンスに成功した。そのため、現在までの進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は簡便なDNA抽出キットを使用して、ガンピのITS領域のPCR増幅とその領域のシーケンスに成功した。ガンピはITS領域配列の報告がないため、ガンピに近縁のジンチョウゲ科に属する植物の配列を使用してプライマーを設定し実験を行ったが、シーケンス配列のBLAST検索の結果、最も近い配列はジンチョウゲ科ではなかった。この配列の再確認のために、今後複数のガンピ資料からDNAを抽出してシーケンスを行い、その配列を確定する予定である。一方、コウゾはPCRの結果複数のバンドが増幅していたため、ミツマタと共により精製度の高い鋳型を得るための実験を行う。そのため、次年度は当初の予定通り植物用のキットを使用してDNA抽出を行い、増幅が成功しない場合は、各プライマーの設計を見直してPCR及びDNA配列決定を行う予定である。 和紙資料で安定した結果が得られるよう実験を繰り返し、当初の目的である経年劣化を再現した和紙資料や、許可の得られた文化財資料についてDNA抽出を行う。得られた成果は、適宜国内外の学会や論文として報告する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響により、今年度に実施予定であった植物のゲノムDNA調製のための複数のキットを使用したDNA抽出の比較実験が遅れたため、未使用額が生じた。本実験は次年度に実施する予定であり、未使用額はその経費に充当する。
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