2022 Fiscal Year Research-status Report
水損した民俗文化財における鉄汚染被害の解明と対処方法の構築
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20K13249
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Research Institution | Gangoji Institute for Research of Cultural Property |
Principal Investigator |
金澤 馨 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (60834265)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鉄汚染 / 木製文化財 / 水損 / 水質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、鉄汚染という木材の変色発生のメカニズムと変色がもたらす民俗文化財への損失を把握することによって、諸対策方法を構築し、文化財レスキュー活動の初動対応の効率化を促すためのものである。 本研究において、鉄汚染の文化財レスキューのために把握すべき課題は、1. 材質、環境、水質等の各条件における発生の有無と変色の程度、2. 発生に至るまでに要する時間と継時変化、3. 資料情報(墨書等の文字、彩色)、資料材質(木材強度)に変色が与える影響。の3点を軸に進めており、これらの把握により、被災時の保護措置や保管環境の決定、変色の発生を予防または軽減させ、他の被災資料との優先順位について考慮が可能となり、体制の調整や処置方法の検討、他の被災資料にかかる人員や時間の増大など波及的効果も期待ができると考える。 課題1,2のため、海水、河川水、水道水、純水を浸水させた木材片(ヒノキ・スギ)上に鉄材を設置し、変色の発生速度と継時変化について検討した。当初、鉄の腐食を進行させる塩分を含む海水において最も変色の発生速度、濃淡共に大きくなるものと予想していたが、結果は最も変色の発生速度が遅く、濃度も薄い結果となり、河川水、水道水、純水を含む試験体では、非常に濃い変色を生じることが確認された。全ての試験体において、鉄材の腐食の発生が見られたが、特に海水での試験体において、腐食生成物の析出が見られる箇所には変色が比較的軽微なものとなったことから、腐食により表面に被膜が形成されることで鉄イオンの流出が抑制され、結果として変色の発生が小さくなったと考えられる。また、各水質において木材の浸水時間が長いほど、より短時間での変色発生の傾向があり、変色の濃度が増大することが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主たる課題としている、各条件下での変色発生の有無と程度、発生に至るまでに要する時間と継時変化については、各条件での傾向を把握することができたが、変色の要因が温湿度や水質、鉄材の状態、pHに浸水のタイミングや時間が関わることで、発生要因が複合的となるため、研究としての目的である文化財レスキュー対応への応用のためには、それらの複合的な要因を精査し、まとめる必要がある。そのためにより多くの比較実験を行うとともに、データの整理が必要であることが課題を進めるにつれ顕著になった。特に本研究内で最も重要と言える水質の違いによる変色への影響について詳細にとらえるため、pH、水温、用いる水の性質を加味し進めていく必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在継続中の比較実験については、主軸である水質について種類と条件を変え再度比較を行う。特にこれまでの比較実験にて変色の程度が大きく、昨今の災害発生の頻度としても重要性の高い河川水を中心に進めていく予定である。また残る課題である変色が文化財へ与える影響の内、変色による視覚的な変化が齎す影響について、墨や鉛筆等による情報が変色により損なわれるのか、また赤外線、紫外線等の主たる観察方法への影響があるのかを把握し、文化財の損傷としての程度について検討していく。
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Causes of Carryover |
当該年度は新型コロナウィルスの状況緩和に伴う、事業の大幅な増大により研究進行に支障が生じ、また研究の主たる課題である木材の試験体を使用した変色の発生実験について、発生に至る要因が周囲の環境条件や木材、鉄材の各種条件といった複合的に絡み合うことは想定されたが、想定以上に個体差によるものが大きく実験期間が延長されたため、助成金の使用が遅れることとなった。 翌年度は早期に進行中の実験の不足箇所を補うべく比較実験を行うと共に、実施後の試験体についての経過の観察等を行う。また、もう一つ変色の視覚的影響についての検討を予定しているが、こちらは実施済みの実験結果を応用し、より変色の程度が大きい条件を用いて進める予定であるため、前述の比較実験と並行し本研究全体の簡潔に向け進めていくものとする。
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