2023 Fiscal Year Research-status Report
水損した民俗文化財における鉄汚染被害の解明と対処方法の構築
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20K13249
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Research Institution | Gangoji Institute for Research of Cultural Property |
Principal Investigator |
金澤 馨 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (60834265)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 鉄汚染 / 海水 / 河川水 / 鉄イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では近年多発する自然災害による水損が、木製文化財へもたらす鉄汚染の影響について再検討を行うべく、水害の水質とその後の対処の差を中心としてサンプルによる比較実験を行っている。 サンプルの試供体は木製文化財に多く用いられているヒノキとスギを用い、試供体上に純鉄製の小片を乗せた状態で、海水、河川水、イオン交換水を含水させ湿潤状態を保持しその後を継時変化を観察し、木材に浸透した水分の性質によって鉄汚染の変色への影響について比較検討している。結果として、河川水とイオン交換水では鉄と木材との接触後、非常に早く接触部分を中心として濃い変色が生じ、水分を取り除かない限りは徐々に濃色へと変化が起こったものの、変色範囲は木材の繊維方向に伸びるものの限定的であった。対して海水については、明らかに発生に至る速度が遅く、含水後に金属腐食が生じたサンプルほど変色の発生が抑制されている傾向を示した。また河川水とイオン交換水についても金属腐食による析出物の付着箇所においては鉄汚染の変色が発生しないまたは軽微な状態となった。ただし湿潤状態を維持させたところ海水においては湿潤箇所全体が淡い変色を示したため、金属腐食が完全に変色を抑制するものでなく、徐々に鉄イオンが水中へと分散し変色を生じさせるものと思われる。文化財の水損時、金属部材に対してまず懸念されることは金属腐食による強度低下や析出物による汚染であろうと思われ、鉄汚染の発生についても塩分を含む海水による被害を想定していたが、結果として海水では放置によって広範囲の変色を進行させるものの、変色の程度は河川水によるものがより甚大な汚染となり、特に鉄材を多く使用する民具等の木製文化財の外観への影響が危惧される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の主題である鉄汚染の発生に至る傾向の把握、特に水質の違いによる濃度や継時変化の比較について、温湿度や試供体の状態等、発生要因が複合的であると思われるため、より多くのサンプルデータの取得や検討が必要であり、課題を進めるにつれ見えてくる要因も多くあった。またそれらの結果をデータとしてまとめ整理していく必要性があった。 特に次年度にて予定する汚染の変色被害が実際に文化財情報へもたらす影響の調査のため、より甚大な被害を想定した現実的な観察を行うため慎重に前段の比較実験を進める必要があったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの比較実験によって水損時の鉄汚染発生の影響は河川水にてより甚大な被害が生じる傾向にあることが判明した。汚染発生による文化財の外観的な損傷は明らかであるが、文化財表面に記された文字情報が汚染の変色により隠された場合、文化財資料としての価値に関わる損失を受けることとなる。そのため、鉄汚染の変色による色調と類似している墨書を中心として、汚染に覆われた場合の判読の可否について、光学的に調査を行うことで実際的な変色の被害について判断をする。 またこれまでの比較実験による変色濃度の数値的なデータをまとめるととともに、変色発生に至る時間等について具体的な情報を整理し、研究の結論に向けて進めていく。
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Causes of Carryover |
本研究の開始時より新型コロナウィルスの蔓延による移動規制や各学会等の中止のため、研究の主題である比較実験の条件等の設定、開始に大幅な遅れが生じ、研究全体の進行が遅れることとなった。また比較実験自体についても鉄汚染の変色発生に至る複合的な要素と個体差を整理しより確実な結果を得るため、実験の進捗に時間を要し助成金の使用に遅れが生じることとなった。 翌年度については当初より最終年に計画していた鉄汚染の具体的な被害把握のための光学的な調査を早期に行うとともに、これまで実施してきた鉄汚染発生に至る時間や濃度等の比較実験データの最終的なまとめを行い、研究全体の結論を出すべく計画的に進めていく。
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