2020 Fiscal Year Research-status Report
考古系展示施設における観覧行動分析とそれに基づく多様な「学び」の構築と実践
Project/Area Number |
20K13257
|
Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
廣瀬 智子 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 企画調整部, アソシエイトフェロー (90865411)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 博物館学 / 考古学 / 観覧行動 / 考古資料 / 展示 / 来館者調査 / 博物館教育論 |
Outline of Annual Research Achievements |
出土遺物を主とした考古資料は、広く公開・活用されるものであり、理解者の裾野の拡大が展望されるが、公開・活用の場として第一に取り上げられる展示施設において、肝心の「利用者」と「考古資料」の実態について総合的に分析した調査事例は少ない。そうした問題意識のもと、利用者の観覧行動の調査・分析を通じて、考古資料の展示活用の現状を把握し、利用者の実態とニーズを精査・再考することを目的とする。 2020年度は、フィールドである平城宮いざない館と平城宮跡資料館において、来館者行動調査を実施し、基礎データの収集・整理を重点的に行なった。平城宮跡歴史公園の利用者数が一年で最も多く見込まれる秋季に焦点をあて、土日・平日問わず同条件で計8日間実施した。内容は、全体動線調査と立ち止まったポイント及び会話収集調査である。前者は、利用者の観覧ルートを観察し動線を記録するもので、対象者の年齢層、性別、個人・グループ・団体の差、滞在時間等に留意した。後者は、展示室各エリアでの動き、立ち止まったポイントとそこでの会話収集に努めた。 全体行動調査では、小・中高生~20代と60代以上の利用とで、平日・休日の滞在時間に明瞭な傾向の差を見て取れた。仮説として想定していたが、実態を踏まえた上で数値として得られた成果は大きい。会話調査では、考古資料に対面した利用者の率直な感想や、利用者同士のコミュニケーションツールとなる展示資料についての考察を深めることができ、アンケートでは得られない利用者の素の感性を捉える上で非常に有効な情報を得ることができた。 また、学校団体の行動にも着目し、使用する学習ツールの違いや、校外学習と修学旅行の違いによって滞在時間や児童の様子に差があることが判明した。この点については、次年度以降、サンプル数を増やし検証していく必要があろう。以上の成果の一部は『奈良文化財研究所紀要2021』にて公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大防止の影響から、2020年度は秋以降からの取組みにならざるを得ず、当初計画では2020年度の春季と秋季での利用実態を比較検討する予定であったが、実行に移せなかった。また、他施設への事例調査等についても、博物館を含む公共施設が全国的に閉館していた影響で、当初計画よりも遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、2020年度のデータ整理・検討に取り組む。会話収集で得られたデータをテキストマイニング等の解析で処理することも念頭に置いている。 本年度の来館者調査では、昨年度と同じ秋季に実施する予定である。その際、昨年度とは異なる条件設定を想定している。すなわち、2020年度は解説員を介さない純粋な利用者の動態把握に努めたが、本年度は、解説を介しての観覧行動のデータ収集に努めたい。特に、動線の変化、滞在時間の変化について比較し、純粋行動がどのように変容するのか、資料への理解度や解説員の有用性について考察する材料を得たいと考える。ただ、コロナ禍によって活動中止・再開の目途が立たない現段階では、あくまでも計画予定としてあげておくに留めたい。 また、児童・シニア等の年齢別や観光・教育旅行等の目的に応じた、より詳細な観覧動線の傾向分析を進めるとともに、今年度得られた全体傾向と比較するため、対象とする層を絞った調査を実施する予定である。その他、他施設における考古資料の展示手法や解説員の運用実態、教育普及の事例収集・整理にも併行して取り組む。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大防止の影響から、2020年度は秋以降からの取組みにならざるを得ず、当初計画では2020年度の春季と秋季での利用実態を比較検討する予定であったが、実行に移せなかった。学生アルバイトを複数依頼する計画であったが、コロナ禍でのアルバイトの規制などの影響もあり、調査にあたって必要な人員を確保できなかったため予定していた人件費に余りが生じた。 また、他施設への事例調査等についても、博物館を含む公共施設が全国的に閉館していた影響で当初計画よりも遅れているため、旅費も当初計画よりも使用に至らなかった。
|
Research Products
(1 results)