2020 Fiscal Year Research-status Report
A Legal-philosophical Examination of Normative Theories of Discrimination Law Based on the Respect as an Individual
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20K13298
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
森 悠一郎 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (60707488)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 基礎法学 / 法哲学・法理学 / 差別 / 個人の尊重 / 差別禁止法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究計画調書「研究目的、研究方法など」の「本研究の目的」に記載の通り、差別の道徳的な不正性を個人主義的に説明しようとする理論の擁護可能性を検討した。 具体的には、現代英米圏の差別の規範理論における関連文献の精読を通じて、差別の道徳的不正性を個人主義的に説明しようとする代表的理論として、差別の不正性を個人が自らの(人種・性別などの)属性を考慮することを強いられない自由の侵害に求める熟慮的自由説と、それを個人の人格的尊厳の蹂躙に求める尊重説について、両理論の内容を明らかにすることを試みた。 当初計画していた上記の検討作業と並行して本年度は、雇用法制および社会保障法制における年齢差別および障害差別という具体的な問題につき、個人主義の観点からいかなる分析を加えることができるかについて、労働法学(とりわけ雇用差別禁止法)、社会保障法学(とりわけ年金制度の存在理由)、世代間正義論(とりわけ平等と時間の関係)における関連文献の精読を通じて、自説の構築を試みた。 前者(個人主義的な差別の道徳的不正性の理論の検討)で得られた考察の一部は、本研究者が所属する法哲学・社会哲学国際学会連合日本支部(IVR Japan)主催の国際ワークショップおよび日本法哲学会2020年度学術大会・分科会報告(オンライン開催)の場で報告した。 後者(個人主義から見た年齢差別・障害差別の問題の検討)で得られた考察の一部は、ボルドー大学研究員の笠木映里氏が企画した座談会「高齢・障害と社会法」において展開し、労働法・社会保障法の研究者(関ふ佐子教授、永野仁美教授、柳澤武教授)との間で意見交換を行った(座談会の模様は『法律時報』92巻10号に収録されている)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年3月頃からの新型コロナウイルスCOVID-19の流行により、欧米の差別禁止法関連図書の入手が遅れるとともに(4月から7月頃までの物流の遅延が原因)、研究成果の報告の場として当初予定していた学会・研究会の一部が中止ないし延期となった。加えて、「研究実績の概要」で既述した通り、個人主義から見た年齢差別・障害差別の問題の検討に相当の時間を費やすこととなった。 そのため、当初本年度に完遂する予定であった熟慮的自由説と尊重説の検討につき、両理論の内容を明らかにするところまでしか進まず、双方の長短を比較検討するまでには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は前年度の未達部分を完了させるとともに、研究計画調書「研究目的、研究方法など」の「本研究の目的」に記載した通り、熟慮的自由説と尊重説を指導原理とした、あるべき差別禁止法の理論の構築可能性について検討する予定である。 来年度の前期(4月-9月)には前年度に完遂する予定であった、熟慮的自由説と尊重説の長短を比較検討する予定である。 来年度の後期(10月-3月)には、熟慮的自由説および尊重説を指導原理とした場合、あるべき差別禁止法としてそれぞれいかなる理論を構築し得るかについて検討する予定である。具体的には、①有利集団とされる人々を不利に扱う逆差別実践を法的にどう評価すべきか、②間接差別や構造的差別の問題に法はどう介入するべきかといった論点について、両説の含意を検討する予定である。熟慮的自由説の提唱者であるソフィア・モローは近著『不平等の諸相(Faces of Inequality)』(2020年)において、熟慮的自由の侵害を(差別の他の道徳的な不正事由とともに)差別禁止法においてどう扱うべきかについて論じている。同書においてモローは間接差別、構造的差別の問題については立ち入って検討している一方、逆差別実践については積極的差別是正措置との関係で簡素な論述があるのみだが、彼女のテクストにおける記述から熟慮的自由説の射程を析出し、他の関連文献の検討作業とも合わせて、後者の問題についての法的含意をも考察する予定である。 新型コロナCOVID-19の流行により当初来年度に開催予定だった法哲学・社会哲学国際学会連合(IVR)ブカレスト世界大会が再来年度に延期されたため、来年度の中間的な成果報告は国内の研究会などで報告する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス拡大により当初参加を予定していた国内外の学会、研究会が中止、延期ないしはオンライン開催となったため、そのために計上していた旅費の支出がなく、記載通りの次年度使用額が生じた。 次年度の少なくとも後期にはワクチン接種が普及することが見込まれ、延期となった(ないしは元々次年度に開催予定である)学会や研究会が対面形式で開催される予定であることから、次年度分として請求した額と合わせてそれらの学会・研究会への出張旅費として使用する予定である。加えて、当初計画調書に記載した通りの関連図書の購入にも充てる予定である。
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Remarks |
雑誌論文、学会発表、図書に当たらない研究発表として、「[座談会]高齢・障害と社会法」(『法律時報』92巻10号、2020年、11-38頁)、「機会の平等に基づくアファーマティブ・アクション正当化論の意義と限界」(東京法哲学研究会、2020年、招待なし、国内)などがある。
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Research Products
(7 results)