2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K13352
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Research Institution | Seiwa University |
Principal Investigator |
小野上 真也 清和大学, 法学部, 准教授 (70468859)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 共犯体系 / 統一的正犯体系 / 従犯 / 共同正犯 / 共犯の処罰根拠 / 法人処罰 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、受罰主体拡張法理の解明という全体構想のうち、前年度からの研究をより具体化し、(ⅰ)機能的統一的正犯体系に基づく関与形態論(共犯論)と限縮的正犯概念に基づく共犯論とを比較分析した単著研究論文(「援助正犯概念と従犯概念の比較分析」山口厚ほか編『高橋則夫先生古稀祝賀論文集 上巻』〔2022年〕925頁-941頁)を公刊した。また、(ⅱ)正犯に対し形式的に関与する行為のうちで可罰的な「幇助行為」をいかなる手法で抽出するかについての分析、(ⅲ)法人処罰において「過失」がいかなる意味を持ち得るのかの構想、を進展させた。 上記(ⅰ)に関しては、オーストリア刑法学の採る機能的統一的正犯体系の下での「直接(共同)正犯」(我が国の共同正犯に概ね相当)および「援助正犯」(我が国の従犯に概ね相当)と、我が国の「共同正犯」「従犯」とを対比し、①オーストリア刑法(以下「法」とする)12条では、直接(共同)正犯・援助正犯もいずれも「正犯」と位置付けられ、それら区別に関し実行行為の分担の有無という形式面が強調されるものの、②実質的には法32条以下の量刑規定に基づいて、援助正犯には直接(共同)正犯に比した減軽処罰が予定される点で同量刑規定が実質的な正犯・共犯区別基準に相当するものであること、③その観点から、我が国で行われている正犯・共犯区別における考慮要素を、一定の範囲で法32条以下の量刑規定適用の場面で援用可能であること、を明らかにした。 また上記(ⅱ)に関しては、実務家・研究者をメンバーとする研究会において「幇助行為の特定」というテーマで研究報告し意見交換を行った。同報告では、多数の判例における判断基準を分析し、正犯の犯罪計画を関与行為者が関与時の計画に容れて関与した点も、幇助行為の特定にとり重要な考慮要素となると論じた。 上記(ⅲ)については、継続的に分析を進め、研究構想を進展させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の実績報告において、令和3年度には、①援助正犯と従犯との比較分析に関する論考の脱稿、②援助正犯・従犯(幇助犯)の実態を踏まえた従犯の本質分析、③それを踏まえた従犯固有の処罰根拠分析(「従犯」「援助正犯」という関与類型の双方を包摂する従犯固有の処罰根拠の解明)、④法人処罰論における受罰主体の拡張根拠分析を進めることを課題とした。 令和3年度までに、上記①については単著研究論文を公刊し、上記②については(①の知見も踏まえ)「幇助行為の特定」というテーマで構想を具体化して研究報告を行ない、研究論文の公刊に向けた具体的な準備ができている。また、上記③については、上記①②の研究成果に基づき、単独正犯および共同正犯・教唆犯に比した従犯(ないし幇助形態関与)固有の処罰根拠の解明が、限縮的正犯概念の下での「従犯(幇助犯)」に関して必要であるのみならず、(量刑上の減軽処罰が予定され実質的に二次的関与の位置づけを与えられる)機能的統一的正犯体系の下での「援助正犯」にも共通して求められるとの具体的な着想を得ている。現在、その観点からの分析を進めている。また、上記④については、法人処罰が過失推定説によって基礎づけられていることから、「過失」がいかなる意味で受罰主体の特定基準となり得るか、また法人への法的非難可能性をいかに基礎づけ得るか、の継続的な分析を進めている。 これらの点に鑑みると、本研究課題を、概ね順調に進展させることができていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度には、第一に、共犯論(とくに従犯理論)との関連において、①幇助行為の特定基準の具体的解明に基づく従犯の本質分析(「幇助行為の特定」研究)、②援助正犯概念・従犯(幇助犯)概念の双方を包摂した従犯(ないし幇助形態関与)固有の処罰根拠につき、論文公刊準備を進める。また、第二に、法人処罰論との関連において、③「過失」がもつ意義(受罰主体特定基準としての要素、法人の法的非難可能性を基礎づける要素の双方の意義)の解明も進める。 すでに公刊している「援助正犯概念と従犯概念の比較分析」の研究成果も併せて、受罰主体拡張法理の基礎付けを進展させる予定である。 なお、本研究課題申請当初には、令和3年度にドイツへの研究出張も予定していたが、コロナ禍の収束見込みの目処が具体的に立たないことに鑑み、令和4年度に繰り越した。もっとも最終年度である令和4年度においてもこの状況は変わらないように思料されるため、研究出張に換えて、とくに文献研究の比重を重くする、という方法での対応も考えている。
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Causes of Carryover |
本研究課題応募当初、令和3年度にドイツ出張を見込んでいたが、その後のコロナ禍の収束見込みが具体的に立たなかったことから同出張を令和4年度に繰り越したため、大幅な次年度使用額が生じた。もっとも、本研究課題最終年度である令和4年度においてもコロナ禍の収束見込みは依然として具体的に立っていないことから、状況に応じて同費用分を出張に換えて文献研究に充てるなどし、文献研究の比重を重くすることで対応することも考えている。
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