2021 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental Rights Violation by the EU and its Rectification: Empirical Research of "Inter-organizational Contestation"
Project/Area Number |
20K13437
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
大道寺 隆也 青山学院大学, 法学部, 准教授 (70804219)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 欧州連合 / 難民 / 出入国管理 / 人権 / 立憲主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、欧州連合(European Union, EU)の域外出入国管理政策 (external immigration policy) の問題性を剔出すべく、理論および実践の両面での研究を行った。EUでは、陸上と海上の双方で、庇護希望者を排除しようとする「押し返し (pushback)」呼ばれる実践が行われており、庇護希望者の基本権がしばしば侵害されている。従って、この問題を浮き彫りにし、その是正に向けた動きを理論化することを試みつつ、現実に生じている動向を詳述するという作業を行った。理論的には、EUが拠って立つ「EU立憲主義 (EU constitutionalism)」が、基本権保障を謳っているにもかかわらず庇護希望者の基本権を侵害している事実を踏まえ、その匡正に向けた過程を理解するためには、EU外部の(すなわち、正式なEUの意思決定過程に参加していない)諸アクターの役割を考慮しなければならない点を指摘した。実証的には、こうした外からの批判や働きかけ(《外からの立憲化》)がEUの基本権保障に与えてきた影響を、関係者へのインタビューや各種文書類の内容分析を通して検討した。すなわち、非政府組織(NGOs)や個人がEUの活動を批判し告発したことが、EUによる基本権侵害の問題化につながり、ひいてはEUの活動の法的・政治的規律に向けた動きの一端を構成することが明らかになった。こうした分析は、第一に、従来着目されてこなかったEUによる基本権侵害という問題を実証的に剔出しつつ、第二に、その匡正に向けた理論を進展させるという意義を有する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究が行う2つの事例研究のうち、一つは概ね順調に進展しており、もう一つは遅延していることから、総合的に「やや遅れている」と評価した。本研究は、当初、EUの出入国管理政策(特に難民)の分析と、EUのテロ対策の分析の2つの事例研究を実施することを予定していた。そのうち前者(出入国管理研究)については概ね順調に進展している。上述の通り、EU出入国管理における基本権侵害とその外部からの匡正については一定の成果を挙げた。具体的には、2021年度の日本EU学会研究大会において報告を行ったうえ、同学会の機関誌である『日本EU学会年報』に投稿し、査読を経て採択された(2022年度刊行予定)。また、関連する別の英語論文も執筆中であり、2022年度中に英文査読誌に投稿する予定である。他方、後者(テロ対策研究)については遅れている。その理由としては、新型コロナウイルスの影響で海外渡航ができずフィールドワークが実施できない点が大きく、オンライン調査も試みているが、インタビュー対象者の特定および依頼が難航している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の2つの柱(EU出入国管理政策研究とテロ対策研究)について、それぞれ以下の通り研究を遂行していく予定である。EU出入国管理政策に関しては以下の3つの作業を行う。第一に、先述した通り、執筆中の英語論文を投稿する予定であり(現時点では European Journal of International Relations 誌を予定している)、現在、それに向けて、国内外の研究者から草稿に関するコメントを得ているところである。第二に、従来は主に海上における人権侵害を取り扱ってきたが、今後は陸上におけるそれ(例えばハンガリーとセルビアの国境における難民排除)についても分析を拡大していく。第三に、EU出入国管理政策の中でしばしば言及される「人道主義 (humanitarianism)」概念を批判的に検討する。これは2021年度の研究成果の延長線上にあるものである。一方、EUテロ対策については、これまでEUテロ対策(とりわけテロ防止のための諸措置)について日本語で発表してきた成果をさらに発展させた英語論文を執筆する。特に、インターネット上のテロリズム関連コンテンツを規制する措置(『テロリスト・コンテンツ・オンライン指令』)の立法過程を分析する。本来であれば政策立案者へのインタビューを実施するべきであるが、新型コロナウイルスの流行下でそれは難しいので、Webでアクセスできる一次資料および各種二次文献の渉猟を通じて研究を進める所存である。なお、難民・テロ両分野につき、仮に新型コロナウイルス感染症の流行が一定の収束を見た場合は、ヨーロッパ各都市(ブリュッセルやストラスブール、ジュネーブなど)での海外調査を実施したい。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス感染症の影響のもと、当初予定していた出張(国内・国外)が一切実施できなかったからである。仮に2022年度に状況が改善し、出張を実施することが可能になれば、ヨーロッパの複数都市(ブリュッセル、ストラスブール、ジュネーブなど)に渡航し、フィールドワークを実施する。仮に状況が改善しなかった場合は、その分、二次文献の渉猟に注力するため、図書や論文の購入費用に充当する。
|
Remarks |
論文「EUによる『押し返し (pushback)』政策の動態――EU立憲主義の可能性と限界――」により、「EU研究奨励賞」(日本EU学会)を受賞した(https://www.eusa-japan.org/?page_id=3183)。
|