2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ内陸地域のグローバル化:18世紀ザクセン地方における海外輸入品の流通と消費
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20K13547
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
菊池 雄太 立教大学, 経済学部, 准教授 (00735566)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グローバル経済 / アトランティック・ヒストリー / ドイツ経済史 / 商業史 / 市場史 / 農村史 / 消費史 / プロト工業化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は,新型コロナウイルス変異型の流行の影響がなおも大きかったため,計画していた海外文書館史料調査は次年度に持ち越さざるを得なかった。そのため,新たに入手した史料の分析に基づく研究をすることはできなかった。一方で,コロナ禍以前に入手した史料や,当該年度で入手した同時代刊行史料(18世紀の法令集)の解読・分析を集中的に進めることができたため,研究課題に関する新たな発見がいくつもあり,制約下でも研究自体は進めることが可能であった。研究課題は,18世紀に北ドイツ貿易港ハンブルクから輸入される砂糖やコーヒーなどの植民地物産が内陸ザクセン地方でいかに流通し,消費されたのかを解明することであり,当該年度では以下のことが明らかにされた。 1)上記2地域間の通商関係は世紀中頃に強まり,それはプロイセンからザクセンへというシフトとして捉えられる。 2)このシフトをもたらした要因のひとつは,通商政策におけるプロイセンとザクセンの相異であり,前者では重商主義的規制が強められたのに対し,後者ではより自由主義的な体制がとられた。その背景には,ザクセンにおける商業都市の影響力の強さがあった。 3)さらにザクセンでは,いわゆるプロト工業化地帯であるオーバーラウジッツ農村地域が重要な市場を形成していたことが明らかになった。農村市場の発達は,亜麻織物生産の拡大による購買力の向上と並行して,農村卸売り商人および農村小売り商人による取引が活発になったことが挙げられる。これに対して都市商人は圧力をかけたが,オーバーラウジッツに特有の諸条件によって,最終的には黙認されたために,農村商業が発展した。 以上の研究は,フランクフルト大学のセミナー(英語),西洋史研究会,日本ハンザ史研究会,社会経済史学会全国大会で,研究の進展に合わせて内容を拡充する形で口頭報告し,それらをまとめた英語論文がほぼ完成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年間にわたり海外文書館史料調査を行うことができなかったという点は,かなりの遅れとなった。その一方で,すでに収集しているまたは日本にいながら入手することができた史料を徹底的に精査することに集中でき,それによる新たな発見があり,その部分で大きく研究を進展させることができた。また,口頭報告を国内外に向けて行うことで,成果を発信することができ,英語論文もほぼ完成し,近日中に投稿予定である。 来年度は,延期してしまった海外文書館史料調査が実施可能な見通しである。8月や秋季臨時休業などを利用して史料収集を集中的に行い,その解読・分析を速やかに行い,成果を発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
5月中に,英語論文を国際ジャーナルへ投稿する。Journal of European Economic Historyへの投稿を予定している。 6月,7月は,上記論文で論じきれなかった内容(農村を中心としたコーヒー流通・消費の担い手と流通・消費に関する政治的・社会的制度との関係)を整理する。その内容は年度内中に発表することを予定している。 8月に,ドイツへ文書館史料調査へ向かう。すでに具体的な史料群は下調べしてあるため,迅速に収集可能である。具体的には,ドレスデンの中央文書館での調査が中心となる。それ以外に,ライプツィヒやツィタウでの調査を行いたい。輸入植民地物産の小売販売認可に関する史料,消費の実態を直接示す家計簿などの史料を収集する。 9月以降は,収集史料の解読・分析を集中的に行い,植民地物産と流通と消費について,より具体的な実態を明らかにする。 分析結果の一部は可能な限り年度内に研究会や学会で速やかに口頭発表する。比較都市史研究会,経営史学会,政治経済・経済史学会などが候補である。そののちに,研究会ないし学会が発行する雑誌に論文として投稿する。外国語(英語またはドイツ語)での発表もする予定である。World Economic History CongressあるいはDeutscher Historikertagなどが候補である。ただし,発表時期は次年度となる見通しである。
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Research Products
(4 results)