2020 Fiscal Year Research-status Report
「制度」を踏まえた価値醸成メカニズムの検証:エスノメソドロジーの視座から
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20K13614
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 那央 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (10850828)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文化的価値 / 制度変化 / カテゴリー生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、バーという制度化された一つの文化を題材に、その変遷を追うことで、現代市場における制度を踏まえた価値醸成メカニズムについて考察することにある。本年度は、①バー文化が体現する価値を読み解く上で重要な言説分析と(主にデータの収集)、②制度的側面の再生産ならびに変遷の実践を検証するための、実店舗における参与観察やインタビューの開始を計画した。①に関しては、計画に則り、データの収集を開始し、適宜分析や考察を進めた。分析の対象として書籍や雑誌を中心に据え、広範囲にデータの収集を遂行した。中でも、日本バーテンダー協会が発刊する機関誌は、終戦直後から現代に至るまで、約70年分がオンラインにて有料公開されており、バー文化に関する言説の変遷を辿る上で有用であった。本年度は主に戦後から70年代に焦点を当て、文化国家としての再興を目指す日本において、バー文化に期待された社会的価値や、現在オーセンティックバーと呼ばれる典型的なスタイルに繋がる、バーにおけるルールや態度が構築されていく様子を明らかにした。これは、現代に至るまでのバー文化の制度的側面や、その価値の変遷を検証する最初の段階として意義がある。 ②については、COVID-19の流行もあり、実店舗の参与観察は延期し、主にインタビューなどを通してデータを収集した。本年度は特に、伝統的な様式に従った教育を受けながらも、それとは異なるスタイルを採用し、その確立を目指す若手バーテンダーを対象に関係構築やインタビューを実施した。その結果、前世代を批判的に捉えながら、現代における社会的価値を取り込まんとする実践の一端が明らかになり、①での途中経過と合わせることで、制度と価値醸成の変遷に関する考察を進める上で重要な示唆を得ることができた。以上の成果の一部は、2021年6月に実施される国際学会、AHFE 2021にて発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画として設定した二つの課題のうち、言説分析に関しては、当初、その主な分析のリソースとして予定していた「食べログ」などのレストランレビューサイトを対象に、データの閲覧を行ったが、主観的な美味しさや心地よさに触れる単純なものが多数を占めており、文化的な側面やその価値について踏み込んだコメントは期待したほど集まらなかった。一方で、上述した通り、サブリソースとして挙げていた書籍や雑誌の分析からは本研究の問いの解明につながる結果が示唆されつつあり、分析対象に若干の変更あったものの、概ね順調に進行しているといえる。 また、もう一方の課題であった参与観察については、コロナ禍により大幅に計画の変更をせざるを得ない状況となった。しかし、文化・制度の変遷を辿る上で当初設定していた、若手バーテンダーの育成場面から、独立した若手の実践に注目し、彼らの感性を解明する内容に修正することで、大きな問い、方向性自体は変更することなく研究を遂行することができた。 以上を踏まえると、研究自体は問題なく進行しているものの、フィールドワークを大きく制限されたことによる弊害もあり、大きく進展することはなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、言説分析を完了させ、論文の執筆を開始するとともに、国内におけるインタビュー調査の継続、また海外での調査を予定している。まず、言説分析に関しては、引き続き書籍や雑誌などのリソースを中心に分析を進める。また、昨年度あまり成果の上がらなかったオンラインレビューサイトの分析に関しても、客側の言説を理解する上で重要なリソースであるため、異なるサイトやSNSの分析なども視野に入れながら研究を進める。 国内におけるインタビュー調査は、ある程度実施できたが、数が足らないため、次年度は状況などを鑑みながら適宜オンラインツールなども利用し、集中的にデータ収集を実施する予定である。また、現場の参与観察は引き続き困難な状況が予想されるため、これまで自身の研究で使用してきたビデオカメラによる撮影など、実現可能な代替案を模索しながら研究を進める。 さらに、予定していた国外での調査も実施可能かどうか不確実であるため、可能であればオンラインインタビューや、国外を経験して国内に帰国した対象者へアプローチすることでの対応を検討している。こちらに関しても次年度中にジャーナル論文執筆、投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
COVID-19の流行により、予定していた参与観察にかかる旅費や謝金などを繰り越すこととなった。また、謝金に関しては予定していたデータセットの予備分析から予想した結果が得られなかったため、人材を雇用したデータ取得および整理を見合わせたことによる繰り越しも生じた。 このような状況を踏まえて、次年度は、ビデオカメラによるデータ取集などを代替案として考えており、そのデータ収集や分析にかかる物品費などへの利用や、当初予定していたよりも一本多く、成果を海外ジャーナルへ投稿することが見込まれるため、校閲費などへの使用を計画している。
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Research Products
(1 results)