2023 Fiscal Year Research-status Report
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20K14332
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
久保田 直樹 日本大学, 理工学部, 准教授 (20754972)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | フロッグモデル / 時間定数 / ファーストパッセージパーコレーション / ランダムポテンシャル中の乱歩 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は当初計画していた研究最終年度であったため,課題としていた「フロッグモデルにおいて,初期配置がカエルの拡散度合にどの程度影響を与えるのか?」に関する研究成果のまとめ作業および研究発表を行った.ただ,得られた成果を精査する過程において,本研究課題と深く関連する新たな問題(拡散速度の発散性)が見出されたため,この問題に関する情報収集および種々の検証も行った(その結果,当初の研究期間では検証・解析を十分に行えないと判断し研究期間を1年間延長するに至った).これらの具体的な活動実績は以下の通りである: 1.昨年度から作成していた,カエルの拡散度合に対するリプシッツ型評価に関する論文を完成させ,論文誌に投稿した(V.H. Can氏(Vietnam Academy)と中島秀太氏(明治大)との共同研究). 2.研究集会「無限粒子系、確率場の諸問題XVIII」において,「フロッグモデルに関するリプシッツ連続性について」というタイトルで本研究において得られた成果を報告した. 3.カエルの拡散度合に対するリプシッツ型評価の研究過程および研究発表を通して,「初期配置率を小さくしていった場合に,カエルの拡散速度がどのように変化するのか?」という問題に興味をもった.フロッグモデルに関する研究の多くは,カエルの初期配置率をあらかじめ固定しているか,もしくは0から十分離れた状況を想定している.実際,本研究で導出したリプシッツ型評価では,初期配置率が0に近づかないという条件が仮定されている.そこで,この条件の範囲外における拡散度合の振る舞いを解析することを目指し,それに関する情報収集および実験的な計算を行った. 4.上述のCan氏と中島氏と共同で,1次元格子上のフロッグモデルの拡散速度に関する大偏差原理についても研究を行った.この成果は論文としてまとめ,すでに論文誌に投稿済みである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の目標は「本研究課題の総括として,フロッグモデルにおける拡散度合の差異に関する研究を完成させ,さらにそれを周知していくこと」であった.まず,研究の完成という点においてはおおむね達成できたと考えている.ただ,現段階においてはカエルの初期配置をベルヌーイ分布に限定しており,一般の確率分布に対しては拡散度合の差異を十分に解析できたとはいえない.また,本研究過程において「拡散速度の発散」という新たな問題もみつかったため,研究期間を1年間延長することで,本研究の完成度をより高めることができると判断した. 研究成果の周知という点に関しては,研究成果のまとめ作業,大学業務,家庭の事情により十分な出張が行えず,やや不十分であったと結論付けた.この点についても,研究期間の延長を有効活用し,研究成果の周知を図っていきたいと考えている. 一方で,本研究を通してV.H. Can氏および中島秀太氏と共同研究を実施できたことは大きな成果である.これにより,当初の研究計画では想定していなかった「1次元格子上のフロッグモデルにおける拡散速度の大偏差原理」を解決することができた.現在,両氏と共に引き続き共同研究を行っており,多次元正方格子上のフロッグモデルに関する大偏差原理の研究を進めている.この研究は本研究課題に深く関連しているため,研究期間の延長を有効活用することにより,本研究課題をより有意義なものへと昇華できるのではないかと期待している.
以上のように,研究課題の遂行という点では“おおむね良好”な進捗状況であるが,「初期配置分布の一般化」と「拡散速度の発散」という2つの課題が浮き彫りになっている.また,研究成果の周知という点に関しては,計画より“遅れている”といわざるをえない.ただ,共同研究による想定外の成果も得られていることを加味すると,総合的な進捗状況としては“やや遅れている”と判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では引き続き,フロッグモデルを題材として「カエルの拡散度合の差異における初期配置分布の一般化」および「カエルの拡散速度の発散」の研究を進めていく.これら2つの研究に関する詳しい推進方策は,以下の通りである: 1.「カエルの初期配置分布の一般化」に関しては,今年度までに得られた成果を応用・改良することで問題を解決できるかどうかを検証していく.ここで用いた重要な道具は「Russoの公式」とよばれるものであり,この公式は初期配置分布がベルヌーイ分布の場合にのみ使用可能である.より一般の確率分布をベルヌーイ分布で近似する方法も存在するが,その手法が今年度までに得られた成果に直ちに応用できるかは不明である.そこでまずは,この点に焦点を当て研究を進めていこうと考えている. 2.「カエルの拡散速度の発散」に対しては,カエルの拡散を「分枝過程」で制御する方法を検討している.ここでいう分枝過程とは,「起きているカエルは新たなカエルを不規則に生み出す」というルールをフロッグモデルに対して追加したものを指す.この分枝過程では,通常のフロッグモデルより多くの起きているカエルが生み出されるため,通常のフロッグモデルよりもカエルが拡散しやすい状況になっている.したがって,この分枝過程に対して拡散速度の発散問題を解決することができれば,フロッグモデルに対しても同様の問題が解決されたことになる.上述の分枝過程は「単位時間毎に不規則にカエルが生み出される」という構造をもっているため,独立性や同分布性を利用して「一定時間内に生み出されるカエルの個数」を確率的に評価しやすく,それが拡散速度の解析に役立つのではないかと予想している.そこでまずは,この予想が実現可能かを今後の研究において検証していく.また単に発散するというだけでなく,カエルの初期配置率に応じた拡散速度の変化まで解析していきたいと考えている.
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Causes of Carryover |
大学業務および家庭の事情により,本年度も引き続き海外出張を行うことが困難であった.また,国内出張に関しては前年度よりも多少柔軟に対応することができたが,共同研究者の勤務地や大学業務・家庭の事情により予定していたよりも短期の出張期間になってしまった.海外・国内出張にかかる旅費を本年度使用額の大部分として想定していたが,上記の理由により次年度使用額が生じる結果となった.
(使用計画)次年度はすでに,研究発表のために京都大学へ出張することが決まっており,それを含めた国内・海外出張のための旅費として次年度使用額を使用する.特に,次年度の研究で扱う「フロッグモデルにおける拡散速度の発散」の研究に関する支出が多くなると見込んでいる.その理由としては,拡散速度の発散の研究を福島竜輝氏(筑波大)と共同で進めていく予定であることが挙げられる.そこで,福島氏の研究室を可能な限り多く訪問したいと考えており,その際の交通費(研究状況によっては宿泊費)として次年度使用額を使用し,研究の推進に役立てたいと考えている.また,円安傾向に拍車がかかった場合,出張旅費が想定を大幅に超えてしまう可能性があり,その際の補填としても次年度使用額を役立てたい.引き続き,オンラインによる研究集会への参加および研究打ち合わせも多くあると推察できるため,その際に役立つ電子機器の整備にも次年度使用額を用いる予定である.
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Research Products
(5 results)