2021 Fiscal Year Research-status Report
断層撮影技術の基礎となる微分方程式の未知係数決定逆問題にかかる総合的解析
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20K14344
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川越 大輔 京都大学, 情報学研究科, 助教 (30848073)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 逆問題解析 / 偏微分方程式論 / 積分方程式 / 数値解析 / スペクトル解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は, 拡散光トモグラフィ (Diffuse Optical Tomography (DOT)) に対する申請者の提案手法の実用化に向けた数学解析である. DOT は近赤外光を用いた次世代の非侵襲的断層撮影技術であり, 定常輸送方程式と呼ばれる微分積分方程式の未知係数決定逆問題として数理モデル化される. この逆問題に対して研究代表者はこれまでに実現可能と思われる解法を提案しているが, 観測誤差の影響やデータの観測可能性の検討がまだ十分になされていない. 数学解析の視点でこの検討を行い, 研究代表者の提案手法による DOT の実現可能性を明らかにすることが本研究の目的である. 本研究課題では, 1.多倍長数値計算環境下における研究代表者提案手法の数値実験, 2.メタマテリアルを利用した観測データの高解像化手法の提案, 3.これら2つの提案の統合, の3つを小課題として設定し, 特に 小課題2.ではその前段階として Neumann-Poincar\’e (NP) 作用素と呼ばれる境界積分作用素のスペクトルの解析に取り組むことを計画している. 令和3年度は小課題1.および小課題2.に焦点を当て, 以下の成果を挙げた. 小課題1.では, 領域が2次元かつ拡散の影響が弱い場合には研究代表者の提案手法が機能することが倍精度環境下での数値実験で確認された. また, 当初は多倍長数値計算環境の導入を想定していたが, 現段階では解の不連続性と数値計算スキームの精度の観点から導入は非合理的であると判断している. 小課題2.では, 3次元凸領域の境界上で定義された NP 作用素が負の固有値を持つための境界に対する十分条件をいくつか与えた. 任意の凸領域は微小摂動によりこの十分条件を満たすようにできると予想しているが, 現段階ではその数学的記述に至っていない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「概要」で先述した小課題1.であるが, 研究協力者である藤原宏志准教授により, 2次元かつ拡散の影響が小さい場合に, 定常輸送方程式の境界値問題の解の不連続点におけるジャンプ量を倍精度環境下の数値実験で捉え, さらにこのジャンプ量から DOT に関連する係数を数値的に再構成することに成功した. しかしながら, 2次元で拡散の影響が大きい場合や3次元の場合には, 数値的に得られたジャンプ量が理論値から外れており, 係数の再構成には至っていない. なお, 研究計画時は多倍長数値計算環境下での数値実験を想定していたが, 解の不連続性と数値計算スキームの精度の観点から, 現段階では多倍長数値計算環境の導入による精度向上は見込めないと判断している. 令和3年度当初には定常移流方程式の境界値問題の解の正則性を精査することを計画していたが, 解の1階偏導関数の表示は与えられたものの, その表示から示唆される特異性を精緻には捉えられていない. 小課題2.については, 研究協力者である宮西吉久准教授により, 擬微分作用素を用いない大域的な解析手法が提案され, それに基づき3次元凸領域の境界上で定義された NP 作用素が負の固有値を持つための境界に対する十分条件をいくつか与えられた. またこれらの十分条件は, 直感的には任意の凸領域の微小摂動により達成できるように見え, 「3次元凸領域の境界上では NP 作用素が負の固有値を持つのは稀である」という従来の認識を改めるものである. しかしながら, この摂動を数学的に記述する方法は確立されておらず, 現段階では予想に留まっている. なお, 小課題2.と関連して, 擬微分作用素を用いて等方弾性体に対する NP 作用素の構造を精査した.
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Strategy for Future Research Activity |
「概要」の小課題1.については, まず3次元での数値実験の検討に取り組む. 理論解析の段階では定常輸送方程式の境界値問題を複数回解く必要があったが, 断層撮影を念頭に置いた係数決定に問題を限定すれば境界値問題を解く回数が1回で済むことが判明した. 2次元の問題と比較してデータ生成のコストが低く抑えられるため, 検討が行いやすいと考えている. 次に, 拡散の影響が大きい場合の数値実験を試みる. 散乱光の影響を定量的に確認するため, 直進光と散乱光に分けた数値計算スキームを提案しているが, 令和4年度はその実装に挑戦する. 定常移流方程式の境界値問題の解の正則性について, 令和3年度では1階偏導関数の表示を与えるに留まっているが, 令和4年度ではその特異性を Sobolev 空間の枠組みで精査する. 小課題2.については, これまでに得た予想を数学的に記述する方法を模索する. NP 作用素のスペクトルの構造は定義される境界の曲率とも関連するため, C^2 級の閉曲面の集合での摂動を考察することになるが, このような集合上では Hausdorff 距離に基づく摂動が不適当である. Whitney 位相に基づく摂動と見なすのが適当であると予想しているが, 現段階では確認できていない. そのため, 令和4年度はこのアイデアの検証を行う. 加えて, 擬微分作用素を利用して負の固有値の個数の評価を与えることも挑戦する. 小課題3.として, 特異摂動問題の1つである楕円型正則化の収束評価を精密化する. また, この結果を基礎として, DOT でこれまで主流であった拡散近似と本設定との比較を順問題と逆問題の両方の視点から定量的に行う.
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Causes of Carryover |
今回生じた次年度使用額228円について, 令和3年度内に使用することも検討したが, 物品の購入や出張を額内では実行できないと判断し, 令和4年度へ繰り越すこととした. なお, 令和4年度には60万円の直接経費助成を受領する予定であるが, 研究経費が端数分変動する虞が十分あり, 今回生じた次年度使用額は超過端数分に充当する予定である.
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Research Products
(5 results)