2020 Fiscal Year Research-status Report
Observation of nonreciprocal charge transport phenomena caused by current-induced breaking of the time-reversal and space-inversion symmetries
Project/Area Number |
20K14408
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 祥子 東京大学, 低温科学研究センター, 特任助教 (00726317)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 非相反 / 電流注入 / テラヘルツ / 超伝導 / 磁束量子 |
Outline of Annual Research Achievements |
電流の流れる方向によって電気抵抗が異なる非相反電荷輸送現象は、空間・時間反転対称性がともに破れた状態に特徴的な現象である。近年、界面だけでなくバルク物質においても観測され、マイクロスコピックな対称性の破れがマクロスコピックに顕れる現象として注目されている。本研究では、コヒーレントに流れる超伝導電流がマイクロスコピックに時間・空間反転対称性を破ることに着目し、超伝導電流によって生じる非相反電荷輸送現象をテラヘルツ周波数帯で観測することを目的とする。 本年度は、第2種超伝導体のNbN薄膜に直流電流を注入しながら高強度・狭帯域のテラヘルツ波パルスを照射し、透過テラヘルツ波パルスに含まれる第2高調波を観測した。この第2高調波は、直流電流に平行な方向の偏光を照射したときに同じ偏光の透過光に現れ、直流電流の正負によって位相が反転するという、対称性の破れから期待されるとおりの振る舞いを示した。透過波における第2高調波の強度は基本波の1%に及び、これは、試料が25 nm厚の薄膜であることを鑑みると極めて高い変換効率である。 この第2高調波の強度は、超伝導薄膜を磁場中で冷却すると増大した。また、温度依存性には共鳴が観測され、直流電流の大きさや入射テラヘルツ波の中心周波数によって共鳴が現れる温度や発生強度が連続的に変化した。そこで、超伝導薄膜にピン止めされた磁束量子が、直流電流によって傾けられた非調和的なピン止めポテンシャルの中で、テラヘルツ波によって誘起された超伝導電流に駆動されて振動し、その振動によってテラヘルツ波を放射するというモデルを立て、共鳴周波数の直流電流密度依存性と共鳴の幅から磁束量子の質量と粘性を決定し、第2高調波強度を計算すると、実験結果と定量的に一致した。すなわち、他の方法では現れにくい物理量である磁束量子の質量を、テラヘルツ第2高調波の共鳴から決定できることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画どおりに直流電流の注入によって非相反テラヘルツ第2高調波が発生することを実証しただけでなく、その起源がピン止めされた磁束量子であると定量的な計算で示すことにも成功した。計算に使用した磁束量子関連の方程式は、直流やマイクロ波で観測された磁束のデピニングや磁束フロー状態の説明に古くから使われてきたものだが、通常、ピン止め項と、粘性+駆動項に分けて取り扱われており、本研究のような、ピン止め項を共鳴項とし、粘性項、駆動項を含めて強制振動の方程式として見る考え方は新しい。実際に共鳴が確認できるという実験事実にも裏打ちされていることから、大きく広がる可能性もあると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
磁束量子の新たなプローブとして利用できることを実証した直流電流注入下の非相反テラヘルツ第2高調波測定を、マヨラナ粒子が束縛されている観点から注目されている鉄系超伝導体や、バルクマグネットへの応用研究が進められているMgB2やY系銅酸化物といった、特殊な磁束量子系に対して行う。また、空間反転対称性が破れた超伝導体に対して、円偏光照射で励起する超伝導電流によって時間反転対称性を破ることで第2高調波が発生するか検証する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の流行に伴う緊急事態宣言および感染防止措置の影響で、在宅勤務の日数が増加し、物品購入を伴う実験作業やクリーンルームの利用・出張にも制限があったので、理論計算・論文作成を先行させたため。感染症は未だ蔓延しており制限も行われているが、海外から輸入する物品の入手性はほぼ回復し、感染防止措置を取りながらの研究活動の方法も定着してきたので、物品費とその他(寒剤費用等)として、翌年度分と合わせて計画的に使用する予定である。
|