2021 Fiscal Year Research-status Report
鬼界アカホヤ噴火による津波現象の統合的解明:地質記録と数値計算によるアプローチ
Project/Area Number |
20K14577
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
山田 昌樹 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (40806402)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 津波堆積物 / 鬼界アカホヤ噴火 / 火山性津波 / 津波シミュレーション / 火山灰降灰シミュレーション / 火山灰分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,7300年前の鬼界カルデラ噴火によって発生したと考えられている巨大津波を対象として,噴火の過程で,いつ,どのようなプロセスで,どれくらいの規模の津波が発生したのかを明らかにすることを目的としている.地質調査によって,津波の到達,火山灰の降灰,火砕流の到達の順序を地域ごとに明らかにし,それらの情報をもとにした数値シミュレーションを実施することで,火山噴火が津波を発生させた要因とタイミングの解明を目指す. 本年度は,主に津波数値シミュレーションを行った.これまでは,アカホヤ津波堆積物の見つかっている3つの沿岸低地(大分県大分市,徳島県海部郡,和歌山県日高郡)でのみ津波の波高出力および浸水計算を行っていたが,本研究では出力地点を11地点に増やした.また,7300年前の地形を再現することは難しく,現在の地形を用いた浸水計算には意味がないと考え,波高のみを出力した.その結果,カルデラ崩壊モデル(30–120分崩壊の4モデル)では,崩壊時間が短い方が規模の大きい津波を発生させるものの,30分崩壊のモデルであっても,和歌山県や三重県の沿岸地域に襲来する津波波高は1–2 m程度であり,津波堆積物を形成するには不十分である可能性が示唆された.一方,火砕流流入モデルは,カルデラ崩壊モデルと比較して津波の規模が小さく,遠方の津波堆積物を説明することは難しいと言える.これらの結果から,最大クラスを想定したカルデラ崩壊モデルであっても遠方の津波堆積物分布を説明できない可能性があり,先行研究でも提案されている南海トラフで海溝型巨大地震が同時期に発生していた可能性も検討する必要がある.そのためにも,津波堆積物と火山灰降灰の時間関係を明らかにすることが重要であるため,本年度は火山ガラス含有率の上下方向への変化を確認するために改めて堆積物コア試料からサンプルを採取して前処理を実施した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,地質調査によって長崎県五島列島や熊本県天草市などの九州地方西部沿岸地域において7300年前の鬼界アカホヤ噴火に伴う津波堆積物と火山灰層を見つけることを目指していた.なぜなら,これらの場所にアカホヤ火山灰とセットの津波堆積物が存在すれば,津波の発生要因として南海トラフで発生した海溝型巨大地震を否定することができるからである.しかしながら,九州地方西部沿岸地域における掘削調査ではアカホヤ津波堆積物を見つけることはできなかった.一般的な古津波堆積物研究においても,地層中に保存されている津波堆積物を見つけることは容易なことではなく,本研究においても野外調査が上手くいかない可能性は想定済みであった.これまでに得られているデータおよび公表されている他地域のデータを用いて,津波と火山灰輸送のシミュレーションを行うことで,本研究の目的は達成できると考えている. 2年度目は,津波数値シミュレーションをある程度終えることができた.本研究課題が始まる以前は3地点のみで津波波高を出力していたが,本研究では11地点に増やして津波の伝播を検討した.同時に,火山灰と津波堆積物の層序関係を再検討している.これまでは,下位に津波堆積物があり,その上位をアカホヤ火山灰が覆っているという記載のみにとどまっており,その情報をもとにカルデラ遠方の地域では,火山灰の到達前に津波が襲来したと考えていた.現在は,堆積物コアから改めてサンプルを細かく採取し,火山ガラス含有率の上下変化を明らかにすることで火山灰と津波堆積物の堆積プロセスおよび堆積順序をより正確に復元しようとしている.
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは,前処理済みの堆積物コア試料の火山灰分析を進め,アカホヤ津波堆積物と火山灰の堆積時間関係を明らかにする.そして,火山灰の降灰に要する時間を共同研究者に計算してもらい,津波到達との前後関係を明らかにし,層序関係と整合的になる津波の規模,発生要因を解明していく.津波の数値計算はある程度終わっているが,必要に応じて再計算を実施する.なお,既に計算のコードは完成しているので,最終年度である3年度目でもパラメータを変えながら計算を繰り返し行うことは時間を要さない.最終年度なので,研究の成果は国内外の学会(2023 AGU Fall Meeting,日本地質学会など)において発表し,査読付き国際誌への論文投稿を目指す.
|
Causes of Carryover |
繰越可能と聞いたので,使い切る努力をしませんでした. 40円なので使用計画に変更はありません.
|
Research Products
(2 results)