2020 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of anaerobic lipid metabolism mechanism of filamentous fungi for polymer production
Project/Area Number |
20K15436
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
阪本 鷹行 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 助教 (90740332)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 10-ヒドロキシオクタデセン酸 / Fusarium属 / Ohy |
Outline of Annual Research Achievements |
一部の嫌気性細菌が生産する10-ヒドロキシオクタデセン酸 (HYA) は、構造の特性から石油代替ポリマーの原料として注目されている。しかし、細菌は脂質生産性が極めて低く、また観察困難であるためHYA合成・蓄積・代謝のメカニズムも未解明であり、育種も進んでいない。本研究では、細菌に類似したHYA合成経路を有することが知られているFusarium属糸状菌を用い、HYA合成メカニズムの解明と、HYA高生産株の育種を目的とした。 Fusarium属菌のHYA産生時および非産生時において遺伝子転写量を網羅的に比較し、HYA産生時に働く遺伝子群の選抜を試みた。その結果、HYA合成酵素(Ohy)が基質となる外因性遊離脂肪酸や嫌気条件のいずれとも相関せず、恒常的に発現することが示された。さらに、これまでHYA合成には外部からの遊離脂肪酸添加が不可欠とされていたが、本研究では特定の炭素源を用いて培養した場合では遊離脂肪酸非添加条件においてもHYA産生が確認された。したがって、Ohyは内因性の遊離脂肪酸にも反応し得る、細胞質あるいは小胞内酵素であることが示唆された。 これまで、嫌気性細菌において、HYA合成機構は外因性遊離脂肪酸の毒性に対する二次代謝的な防御応答であると考えられてきた。しかし、本研究で得られた「HYA合成は外因性脂肪酸を必要としない」「HYA合成遺伝子の転写はHYA合成と相関しない」という結果はこの仮説に大きく矛盾する。これらのことは「Ohyにおける本来の基質は遊離脂肪酸ではない」といったコペルニクス的転回を示唆している。今後は、Ohyにおける脂肪酸以外の基質を探索し、HYAと合わせて代謝メカニズムと生化学的機能の解明を試みる。またOhyだけでなく、細胞内遊離脂肪酸生成を標的とした分子育種によってHYA高生産株育種を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の課題は大きく分けて、1.HYA合成関連遺伝子の探索、2.HYA合成酵素(Ohy)の機構解析、3.HYA代謝産物の解析、の3点から成る。これらのうち、2.については菌体内脂肪酸を変換したという結果から、Ohyが菌体内に局在する酵素であることが強く示唆されたため、ある程度進展していると言える。今後はより局所的な観察を行い、菌体内の脂肪酸との相互作用様式を解析する必要がある。 一方で、1.についてはOhyの発現挙動が当初予想された二次代謝的発現とは異なったため、以降のHYA産生関与遺伝子の解析は困難になった。しかし、この結果は「Ohyにおける本来の基質は遊離脂肪酸ではない」といった生化学的に新たな知見・見解を生み出すものであり、非常に大きな進展を遂げたと言える。 3.についてHYAの酸化物である10-オキソオクタデセン酸が検出されたが、その下流の代謝産物は確認でいていない。今後は、嫌気性細菌で報告がある共役リノール酸などの分析だけでなく、1.の結果を踏まえてHYA脂肪酸以外のOhy基質を探索し、HYA合成と合わせて代謝メカニズムと生化学的機能の解明を試みる必要がある。さらに、Ohy遺伝子破壊株を構築し、親株との遺伝子転写比較解析を行うことでOhyの下流因子を探索する。
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Strategy for Future Research Activity |
HYA合成酵素(Ohy)の機構については、菌体内酵素であると推察された。今後はGFP融合タンパク発現株を構築し、菌体内局在を観察して、脂肪酸との相互作用様式を解析する予定である。 Ohyの下流で働く因子について、リピドーム解析によってHYA代謝産物を探索する。また、トランスクリプトーム解析の結果からOhyが二次代謝的な発現様式でないことが明らかとなったことから、発現挙動による関連遺伝子群の選定は困難であると考えられる。そこで、Ohy遺伝子破壊株を構築し、HYA添加時・非添加時、および親株との遺伝子転写比較解析を行うことでOhyの下流因子を探索することとする。これらにより、HYA代謝経路および代謝産物の特定を試みる。また、脂肪酸以外に脂肪族アルコールなどの構造増類似物質について、Ohyの基質となる化合物の探索、および代謝産物の解析も視野に入れている。 一方、Ohyを制御する上流因子の解析については、Ohyと同様に恒常発現を示した転写因子やシグナル伝達因子の遺伝子破壊株を構築し、Ohy発現との相関を調べることを予定している。しかし、恒常発現遺伝子は菌体生育に大きく影響する可能性があるため、機能解析が困難であると予想される。そのため、薬剤などを用いた突然変異誘発によるHYA産生能欠損株の構築を試み、得られた変異株における変異点解析からOhy発現調節因子の特定を試みることを想定している。
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Causes of Carryover |
トランスクリプトーム解析費用において、当初予定していたメーカーとは異なる機関に依頼したため、大きく経費を抑えることができた。また、遺伝子機能解析に必要な酵素類については別経費で購入したものを優先的に消費した。さらに、新型コロナウイルスによる影響で、消耗品関係の購入が大きく遅れている状況にある。 今後、遺伝子機能解析費、リピドーム解析費、消耗品の追加購入に加え、別条件でのトランスクリプトーム解析費として利用する予定である。特に、リピドーム解析には放射性同位体の利用を想定しており、高額費用が必要である。
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