2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K15862
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
木下 豪太 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 博士研究員 (60774578)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 季節性毛色変化 / 環境適応 / 野生哺乳類 |
Outline of Annual Research Achievements |
積雪環境への適応形質として、温帯以北の様々な哺乳類や鳥類で「冬季白化」が収斂進化している。また、その多くの種で種内や近縁種間で季節変化するものと変化しないものという二型が存在しており、生物の環境適応形質の進化や多様性創出を理解するうえで興味深い研究対象である。本研究では近年、ニホンノウサギは大陸種と異なる遺伝子により季節性毛色変化を収斂進化させた可能性を見出しており、ノウサギ属を足掛かりに北方に生息する多様な哺乳類で季節性毛色変化が収斂進化した遺伝的メカニズムの解明を進めている。 本年度はニホンノウサギで特定された毛色二型の原因と考えられる候補遺伝子について遺伝子発現の解析を行った。夏毛から冬毛への換毛期において、ニホンノウサギの毛根組織を採取し、RNAの発現量を測定した。その結果、換毛の初期には大陸種で白化の原因とされるAsipの発現量が高く、換毛の進行とともに発現量が減少することが判明した。一方でニホンノウサギの毛色二型の原因遺伝子については、白化型アリルと非白化型アリルで換毛期間中の発現量に差が見られ、当該遺伝子にシス調節変異が起きていることが示唆された。また、ニホンノウサギの毛色二型について過去の気候変動による影響を推測するため、ニッチモデリングによる毛色二型の分布推定を行った。その結果、ニホンノウサギの毛色二型は最終氷期には白化型の分布域が現在よりも南西に広がっており、非白化型は九州や太平洋沿岸の限られた地域に分布が縮小していたと推定された。このことから、ニホンノウサギの毛色二型は過去の環境変動の下で、時空間的な環境の変化による平衡選択を受けながら維持されてきたことが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた通り、ニホンノウサギの毛色二型の原因と考えられる候補遺伝子についてRNAの解析を実施した。その結果、アレル間での遺伝子発現パターンの違いを明らかにすることができ、当該遺伝子に起きたシス調節変異によって毛色二型が発現していることを強く示唆することができた。現在、Asipを含むその他の毛色関連遺伝子との発現パターンの関連についても詳細な解析を進めている。また、冬毛から夏毛に戻る際の遺伝子発現パターンを解析するためのサンプルについても順調に収集している。ニッチモデリングについても分布の全域をカバーした多数のサンプルを収集することができ、精度の高い分布推定を実現することができた。さらに局所スケールでの分布推定を実現するため、選抜地域での集中的なサンプルの収集も進めている。また、新たな展開として、隠岐集団のゲノム解析を行うための多数のサンプルを収集することもできた。以上の理由から、総じて順調に研究が進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
ニホンノウサギの毛色二型の原因と考えられる候補遺伝子について、アリル間の発現パターンの差をもたらすシス調節変異領域を特定するため、ゲノム構造解析等の新たな解析を始める。また、季節による発現パターンの違いも解明するため、冬毛から夏毛へ戻る際のRNA解析も実施することで、ニホンノウサギにおける季節性毛色変異と毛色二型の分子機能をより詳細に解明する。また、局所スケールでの気候変動と自然選択の影響を推定するための選抜地域でのニッチモデリングを行い、将来の地球温暖化による影響も予測する。加えて、特異な遺伝子型と毛色を示す隠岐の集団について、全ゲノム解析による毛色関連遺伝子群の本州集団との比較も行う。
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Causes of Carryover |
2021年中に取得を計画していたゲノムおよびRNAサンプルの一部について、実際の取得が年度末に変更となったため、それらについては翌年度の解析サンプルとプールしてシーケンスを実施することに計画を変更し、その分の解析費用として次年度使用額が生じた。既にサンプルの取得は済んでいるため、2022年度中にその解析を実施する計画である。
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