2021 Fiscal Year Research-status Report
近赤外光によるガン治療を志向したヤヌス型複合希土類光触媒の創成
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20K15979
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Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
川島 祥 兵庫医療大学, 薬学部, 助教 (60775724)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナノ材料 / 光物性 / 光触媒 / 希土類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、様々な特性を有する希土類ナノ結晶を合成し、それらを直接結合させることで、2つの顔を持つかのような異方的な構造 (ヤヌス型構造) を形成することを目指して研究を行った。 1年目の研究の結果、生成したナノ結晶がさらに結合し、複雑に分岐した高次構造を形成する様子が観察された。反応時間を変えたナノ結晶において、光触媒反応の対象物質であるクマリンの分解量には大きな差が見られなかったものの、反応生成物である7-ヒドロキシクマリンの生成量にはばらつきが見られた。また発光特性についても評価を行い、Euの2価による光吸収と発光増強の可能性が示唆された。 これらの結果を踏まえて、本年の研究においては、ナノ結晶合成における反応時間を変化させたときの吸収や発光特性の変化と、比表面積・細孔分布測定装置による比表面積などの構造の評価、および異なる希土類ナノ結晶を組み合わせることによるヤヌス構造の形成と特性評価について着手した。合成の反応時間を変化させると、形成するナノ結晶の形状が変化するとともに結晶構造や価数が変化していく可能性が示唆された。光触媒活性にも差が見られたが、この活性の変化が何に由来するかを特定するには様々な希土類フッ化物ナノ結晶を合成し、その特性の変化に傾向を見出す必要がある。そこで、ユウロピウムフッ化物だけでなく、テルビウムやガドリニウムを用いたフッ化物ナノ結晶についても、合成時間を変化させ、それに伴うナノ結晶の形状や構造、光物性の変化を評価した。ヤヌス構造の形成には、まず1種類のみで構成された希土類ナノ結晶を個別に合成し、精製した後、再び合成溶媒中に分散させて、加熱還流することにより作製を試みた。作製した試料は、それぞれの結晶構造を保持するとともに、複雑に分岐した高次構造を有することがTEM観察より確認され、光触媒活性もそれぞれの単体よりも上昇する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ感染の拡大に伴い、1年目の実験が停止していたこともあり、目標としている状況からは遅れていると考えている。一方で、ナノ結晶合成における反応時間の変化による結晶の形状制御の可能性が示唆され、ヤヌス型構造の形成のために必要なナノ結晶の作製条件が確立できた。また、ヤヌス型構造の形成にも着手し、構造の評価や、光触媒活性の向上が観測されたことから、順調ではないものの、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
単体のナノ結晶について、反応時間を変えて構造や形状、光物性、および光触媒活性の評価を行ったところ、ユウロピウムフッ化物ナノ結晶において、複雑な構造の変化が観測された。これはユウロピウムの二価と三価の価数変化に起因しており、光触媒活性にも大きく影響しているものと考えている。これらの結果を踏まえて、この価数変化による光物性の変化を活用するために、ヤヌス型構造の形成に用いるナノ結晶には、価数変化を引き起こしやすいユウロピウムやテルビウム、サマリウムなどを積極的に使用し、価数変化を起こさないガドリニウムを用いた場合と比較することで、各希土類ナノ結晶がどのように働いているかの指標にしたいと考えている。さらに、イッテルビウムやネオジムなどの希土類イオンは、近赤外光の吸収が報告されていることから、これらの希土類ナノ結晶を比率を変えて混合し、ヤヌス型構造を形成することで、アップコンバージョン光触媒としての応用可能性について、検討を行う予定である。 また、ナノ複合体の有する細孔構造を活用した吸着や光触媒活性についても評価を行う。具体的には、単体の球状ナノ結晶とは異なり、微細な細孔構造を有することで、内部に有機分子を積極的に取り込むことが期待できることから、色素分子を用いて、ナノ複合体の内部への分子の吸着量を定量し、さらに取り込んだ分子に対する光触媒分解の過程を拡散反射測定により追跡することも計画している。
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Causes of Carryover |
コロナ感染の拡大に伴い、学会の開催がオンラインに変更となったことから、次年度使用額が生じた。残った助成金については、必要な試薬と器具の購入に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)