2020 Fiscal Year Research-status Report
前頭側頭型認知症の患者剖検脳を用いた海馬シナプス障害の解析
Project/Area Number |
20K16586
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
陸 雄一 愛知医科大学, 付置研究所, 助教 (50748382)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 前頭側頭型認知症 / TDP-43 / シナプス |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究の目的は、前頭側頭型認知症症例(FTLD-TDPおよびFTLD-tau)の剖検脳をもちいて、海馬顆粒細胞軸索終末の脱落を評価するというものであった。初年度は、合計で51症例の海馬を確保し、免疫組織学的に評価した。あわせて、そのほかの部位(線条体、大脳新皮質)の軸索終末も評価した。予想した通り、前頭側頭型認知症患者では、海馬顆粒細胞の軸索終末が高度に脱落していた。子の脱落は部位特異的であり、例えばほかの大脳新皮質の軸索終末の脱落とは相関しなかった。コントロール脳も20例観察し、こちらでは軸索終末の脱落は認められなかった。残存した軸索終末にはリン酸化TDP-43の凝集が見られた。顆粒細胞におけるTDP-43およびタウタンパクの凝集量と、その軸索終末の脱落との間に、有意な相関がみられた。なお、タウタンパクに関連した前頭側頭型認知症では、海馬顆粒細胞の脱落と、その軸索終末の脱落とが相関した。一方で、TDP-43に関連する前頭側頭型認知症の海馬では、顆粒細胞脱落がなくても、高度の軸索終末脱落があった。 c9orf72遺伝子変異、GRN遺伝子変異、MAPT遺伝子変異の有無と軸索終末の脱落には相関がなかった。 dynorphin免疫組織化学で、顆粒細胞の軸索を標識したところ、TDP-43関連前頭側頭型認知症では、軸索が残存していても軸索終末が脱落していることが示された。一方、タウタンパクに関連した前頭側頭型認知症では、軸索終末の脱落は常に軸索の脱落とパラレルであった 。 これらのことから、研究当初に予想していた、前頭側頭型認知症で海馬顆粒細胞の軸索終末が脱落すること、海馬顆粒細胞へのタンパク凝集との相関、TDP-43では特に軸索終末の脱落が病態の早い段階で起こることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予想は、前頭側頭型認知症症例(FTLD-TDPおよびFTLD-tau)において海馬顆粒細胞の軸索終末が脱落することを示すというものであった。初年度の時点で、十分な症例数を確保でき、免疫組織学的評価が早く進捗した。予想した結果を確立することができただけでなく、残存した軸索終末へのリン酸化TDP-43の凝集、顆粒細胞におけるTDP-43およびタウタンパクの凝集量と軸索終末脱落との相関も見出せたため、病的なタンパク凝集と軸索終末脱落との関連性を示すことができた。dynorphin免疫組織化学では、TDP-43関連前頭側頭型認知症では、軸索が残存していても軸索終末が脱落していることが示され、一方、タウタンパクに関連した前頭側頭型認知症では、軸索終末の脱落は常に軸索の脱落とパラレルであることがわかった。このことは、凝集タンパクが異なると、軸索終末および軸索変性の起こり方が異なることを示唆しており、興味深いと考えられた。 c9orf72遺伝子変異、GRN遺伝子変異、MAPT遺伝子変異などさまざまな家族性症例を確保できたことも重要である。我々の結果は、遺伝子変異よりも、海馬顆粒細胞へのタンパク凝集量が軸索終末の脱落に相関することを示唆している。 これらのことから、おおむね研究当初に予想していたような、前頭側頭型認知症で海馬顆粒細胞の軸索終末が脱落すること、海馬顆粒細胞へのタンパク凝集との相関、TDP-43では特に軸索終末の脱落が病態の早い段階で起こることが証明できる見通しとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ここまでに示してきた前頭側頭型認知症で海馬顆粒細胞の軸索終末が脱落すること、海馬顆粒細胞へのタンパク凝集との相関、TDP-43では特に軸索終末の脱落が病態の早い段階で起こること、についてより統計的な確からしさを示せるように、症例数を増やす予定である。TDP-43関連前頭側頭型認知症、タウタンパク関連前頭側頭型認知症には、それぞれいくつかのサブタイプがある(FTLD-TDP type A、type B、type C、FTLD-3-repeat tau、FTLD-4-repeat tauなど)。症例数を増やすことで、これらのサブタイプごとの、軸索終末脱落を比較することが可能になるだろう。また、glutamate以外のneurotransmitterも標識して、どのような軸索終末に変化が強いかも、見ていく予定である。そのための一次抗体などの試薬は入手手配済みである。 シナプスの構造をより詳細に観察するため、電子顕微鏡で、synaptic buttonや軸索終末の小胞も観察する予定である。 また近年、TDP-43関連疾患とtau関連疾患との病態になんらかの関連性や共通性があることが、示唆されている。海馬以外の部位で、細胞質やシナプスにそれを示唆するような所見がないかどうかも、入手済みの検体で検証していく予定である。具体的には、前頭葉皮質や運動ニューロンなどに、TDP-43関連疾患とタウ関連疾患とで共通した変化がないか、シナプスの変化にちがいがあるか、そういったことを検証する予定である。この実験は現在のサンプルと実験系で十分に行えるものである。 これらの結果を総合することで、「シナプス疾患」としての前頭側頭型認知症を提唱できるのではないかと考える。
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Causes of Carryover |
症例の確保と免疫組織学的検討が、予定の予算よりも低額でおこなえ、かつ進捗も早かったため、初年度の試薬に対する使用額はおさえられた。一方、学会発表、論文掲載料、コンピューターや周辺機器などの、費用は予定通りの消費となった。学会はコロナ感染対策の影響で、ほとんどがweb開催となり、それにともなって若干参加費などが低下している。 次年度繰り越し分で、電子顕微鏡的実験、これまでに行った以外のシナプス関連タンパクでの検討を行う予定である。すでに、必要物品(電子顕微鏡の特殊ダイヤモンドナイフ、シナプスタンパクの一次抗体)の見積もりを行っており、4月以降に計上の見込みである。加えて、コロナ感染症の影響で、実験に用いる手袋、マスク、スライドガラスなどの基本実験資材が製造減であり、結果的に価格が高騰しており、研究申請期間内に当初予定していた予算をすべて使用する試算である。また、その予算範囲内で、おおむね予定した成果を達成できる見通しである。
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Research Products
(4 results)