2021 Fiscal Year Research-status Report
膠芽腫に対するiPS細胞由来NKT細胞を用いた新規複合免疫療法の開発
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20K17917
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小林 正芳 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (10867857)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 膠芽腫 / NKT細胞 / iPS-NKT / 神経膠腫 / 抑制性免疫 / 養子免疫療法 / 複合免疫療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、膠芽腫に対しNKT細胞を中心とした新規免疫治療法を確立するため、神経膠腫患者の末梢血及び腫瘍局所における免疫環境の解析を行なっている。千葉大学脳神経外科で神経膠腫と診断された患者と、コントロール群として脳血管障害患者を対象に同意を得て血液を採取し、フローサイトメトリーでリンパ球サブセットを解析している。これまで83症例の検体解析が終了しており、神経膠腫患者では、有意に末梢血中単核球(PBMC)が減少しているにもかかわらず、代表的な免疫抑制性細胞集団である骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)のうち、単球系骨髄由来抑制細胞は有意に増加傾向にあることが示唆されている。また、もう一方の代表的な免疫抑制性細胞集団である制御性T細胞(Treg)のうち活性型制御性T細胞もPBMC中で増加傾向にあることが示唆されている。また、神経膠腫患者の検体から比重分離法で腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を分離して、解析を行っている。抗腫瘍免疫応答に重要な役割を担うCD8陽性T細胞の免疫チェックポイントであるPD-1発現率を、TIL中のCD8 陽性T細胞とPBMC中のCD8陽性T細胞で比較すると、TIL中のCD8陽性細胞において有意に高いPD-1発現を認めており、免疫抑制状態にある可能性が示唆されている。次に動物実験モデルとして、ヒト神経膠腫細胞株を重症免疫不全マウスの頭蓋内に移植したヒト神経膠腫モデルを作成して、腫瘍の成長を頭部CTで観察してきた。今年度は、このデータを元にヒト神経膠腫モデルを用いてNKT細胞をエフェクター細胞として頭蓋内に投与する実験を実施し、ヒト神経膠腫細胞株に対してNKT細胞の免疫治療効果を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
千葉大学脳神経外科で神経膠腫と診断された患者とコントロール群として脳血管障害患者の検体を対象に解析を進めており、新型コロナウイルス禍の影響で脳血 管障害患者の検査入院などの制限などもあり、コントロール群の予定人数に若干の遅れがでた。その他の予定している実験等に関しては、予備実験が終了し本研究全体としては概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト膠芽腫マウスモデルに対して、ヒト末梢血から培養して作成したNKT細胞をエフェクター細胞として頭蓋内に投与する免疫治療実験を実施し、NKT細胞の抗腫瘍効果を確認した。NKT細胞は末梢血中においては非常に少ないため、臨床では治療に必要な細胞数まで増殖させることは困難なことが予想される。そのため、今後は治療に必要なエフェクター細胞としての充分な量のNKT細胞を供給できるiPS細胞由来NKT細胞を用いた治療実験を行う。さらに現在、膠芽腫に対するNKT細胞を中心とした末梢血及び腫瘍局所における免疫環境の解析を行っている。これ迄の解析結果から、膠芽腫患者は免疫抑制状態にあることがわかってきた。そのため、今後は免疫抑制機構に対する複合的治療実験を行う。PD-1は細胞傷害性T細胞の細胞膜表面にある免疫チェックポイント受容体であり腫瘍抗原に繰り返し曝露されることで発現が高まり、T細胞が疲弊状態に陥る。これに対し、PD-1阻害薬であるニボルマブを投与する。MDSCは腫瘍局所でTregなど免疫抑制細胞を誘導することに加え、MDSC自体もT細胞に対する免疫抑制機能を備えていることが知られている。MDSCを正常な骨髄由来細胞に分化させることが知られているオールトランスレチノイン酸(ATRA)を投与して、末梢血中のMDSCを排除する。研究計画の段階では、神経膠腫患者の免疫抑制状態の原因の可能性があるSP1(スフィンゴシン1リン酸)濃度を神経膠腫患者の血清から直接測定する予定であったが、近年血清中のSP1濃度は血管障害の影響を過度に受けることが報告されており、交絡因子により測定結果に非常に大きな影響が出る事が考えられた。そのため、SP1と免疫抑制状態の関係を別の方法で解析する。
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Causes of Carryover |
神経膠腫患者における免疫抑制状態の原因になりうるSP1(スフィンゴシン1リン酸)濃度を神経膠腫患者の血清から測定する予定であったが、近年血清中のSP1濃度は血管障害の影響を過度に受けることが報告されており、交絡因子により測定結果に非常に大きな誤差が出ることが考えられたため、血清中のSP1測定方法や意義について再検討を行い、次年度に新たな解析方法を行うこととした。 また、本研究で得られた知見や結果を発表する学会発表では、コロナ禍による外出移動制限等により旅費を使用していない。今回行った動物実験の際、投与したエフェクター細胞であるNKT細胞のマウスへの影響を検討する必要が出てきた。そのため、次年度では、患者検体解析におけるSP1と免疫抑制状態の関係を解析するとともに、動物実験におけるNKT細胞投与後のマウスへの影響として炎症性サイトカインなどを解析するために使用する。
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