2019 Fiscal Year Annual Research Report
植物の生物フォトンを用いた環境と人をつなぐ新たなメディア開発の研究
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17H06181
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
保科 豊巳 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (40257150)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 芸術 / 環境 / 植物 / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植物の生体反応において発生する「生物フォトン」を媒体として、人と植物とのリアルタイムな異種間コミュニケーションの実現を目指す。さらに、植物が自然環境に影響を受けて生長する過程を多角的に検証し、芸術作品として視覚化することにより、環境メディアコミュニケーションアートという新たな概念の芸術を開拓する。 令和元年度の計画は主に本研究のアートの中での位置づけの検証であったが、実験装置とバイオフォトンの実験などが多忙なため国際展などの研究旅行は断念し基礎研究に集中した。環境アートの流れとして昨今グローバリズムの反動でローカリズムが注目されている。本研究もローカルを意識し昨年度に引き続き東洋的な美の根源を研究した。 人と環境をつなぐ装置に関して更なる東洋的な観点を深めるべく素材として東洋の芸術表現として歴史のある「墨汁」を使い「黒い雨」を降らせる大型の環境装置を施行し実験研究した。その黒い雨に研究協力者の安藤によるバイオフォトンの映像を照射させ芸術表現としての幽玄な世界観の構築に励んだ。黒い雨は本来の雨の無色透明を逆転したものであり、今回の黒い雨は建物の内部(室内)に降らすことにより内側と外側の逆転を試みた。これは我々の日常的な視座を変換して視覚的のみならず体験的にも感性に響かせるものとして構成された。この実験時の映像は東京芸術大学美術館での展覧会「萃点」SUI-TENにて2020年1月7日(火)-1月19日(日)までの期間一般公開した。一方で研究協力者である安藤孝浩に依頼し、植物のストレスによるバイオフォトンの発生量を研究調査、微細な変化のデーター収集を行った。これらの経緯を踏まえ本年度はより芸術作品としての強度を担保しつつ微細なバイオフォトンの環境における変化を融合させて環境メディアコミュニケーションアートの創生を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
人と環境をつなぐ装置の「墨汁」を雨のように降らせる間隔(タイミング)や装置内での傾斜などアナログな要素が難儀であり制作が難航した。単なる装置であれば垂れ流すなど無作為で済むが、東洋的な美を研究し「幽玄」「静寂」「粋」といった構造を理解し試みると一定の間隔(タイミング)が必要となる。様々な間隔(タイミング)を検証し仕上げるための時間を有した。しかしこの間隔(タイミング)も正確なものではなく不安定である。また別件であるが墨汁にフォトンの映像を反射させることは難しくこの課題も更なる検証の余地がある。 バイオフォトンの環境によるストレス実験で一つの問題が発生した。実験装置機材の素材に問題があることが判明しノイズ対策に時間がかかっている。植物を配置するトレーの素材と植物にストレスを与える金属製のアームなどそれらの材質が原因でノイズが発生する。この件は未だ未解決で令和2年度に引き続き検証する必要がある。 このような主に2件の問題点の詰めを年度末に追い込みをかけたかったが、2月、3月には(COVID-19)新型コロナウイルス感染症に関する警戒から細かな詰めの作業が出来ていないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は東洋的な美「幽玄」「静寂」「粋」といった構造をさらに読み解き人と環境をつなぐ装置に取り込むために素材を見直す。素材の特性を調査した上で様々な実験をする必要がある。また、アートとして物事をどのように見ているのかといった視点の問題や視座を高める必要がある。アートの役割として日常から逸脱し日常と非日常の間に存在するような価値を見出さなくてはならない。絵画的な二次元空間と環境を立体的な三次元空間として捉えた場合にその両方の融合をジオラマ的に表現する試みも実験する。研究地である鴨川市の環境を題材に風や空の変化など引き続き調査する。令和1年度は本来の雨の無色透明を逆転し墨汁による黒い雨を考案した。さらに黒い雨は建物の内部(室内)に降らすことにより内側と外側の逆転も試みた。これらは我々の日常的な視座を変換して視覚的のみならず体験的にも感性に響かせるものとして構成した。令和2年度には更なる変容を求め検証していきたい。 バイオフォトン研究は引き続き研究協力者である安藤孝浩氏に依頼して環境におけるストレス実験を詰めていく。装置のノイズ対策に関して様々な素材を試験する。またストレスを与える実験時における振動の対策や素材同士の相性なども研究する必要がある。素材によってはわずかではあるが遅延光が発生する場合がある。例えば植物を入れる容器をアクリル製容器にした場合に顕著に現れる。ストレス実験以外にも植物の他感作用(アレロパシー)の調査も必要としたい。 装置とバイオフォトンの融合もアート的な立場からどのように組み込むのかさらに検証してゆく。
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