2017 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化対策に革新をもたらす新規固体冷却技術の開発
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17H06239
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野口 祐二 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (60293255)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 電気熱量効果 / 格子欠陥 / 自発分極 / 欠陥ダイポール / 酸素空孔 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,次世代の冷却機器に利用可能な固体冷却技術を開発し,革新的な地球温暖化 対策を我が国に提供することを目的とする.極性材料の分極機能に由来する電気熱量効果を利用することにより,高エネルギー効率かつ温室効果ガスを使用しない新規固体冷却技術を実現する.従来の代替フロンを使用したヒートポンプに対し,固体冷却は,次の二点で優れた特長を持つ.1.エネルギー効率が60-70%と高い,2.温室効果ガスを使用しない.本研究者の独自の成果である「電場誘起相転移」と「欠陥分極機能」を基盤として,理論計算(第一原理計算)と実験の有機的な連係により,分極性固体における電気熱量効果の増強を可能とする材料設計指針を確立する.固体冷却に影響を及ぼす決定因子を抽出し,原子スケール構造解析と電子状態計算を援用し,冷却理論の構築および冷却メカニズムの解明を行う. 今年度は,理論計算による候補材料のスクリーニングとバルク試料を用いた実験により,電気熱量効果の決定因子の解析を行った. DFT計算による詳細な電子構造解析とセラミックスを用いた実験の有機的連携により以下の成果を得た:1.アクセプタとして働くことが期待される遷移金属元素の中で,銅とマンガンがペロブスカイト型強誘電体のBサイトに置換すると,酸素空孔をトラップすること,2.アクセプタと酸素空孔から形成される欠陥ダイポールと自発分極が平行になる配列で系が安定化すること,3.欠陥ダイポールに由来する欠陥分極機能を利用して,ドメイン壁の形成エネルギーを利用した新規な電気熱量効果を誘起できることを見いだした.また,電気熱量効果の直接測定を可能とする断熱温度測定システムを設計・構築し,0.01℃の精度で試料の温度変化を測定可能であることを実証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
固相法により遷移金属ドープチタン酸バリウム系セラミックスを作製した。アニールおよびクエンチ処理により、酸素空孔濃度[VO]および遷移金属イオンの価数を凍結した。キュリー温度(TC)よりも低い80 °Cで24 h保持(aging処理)し、VOの再配列を促進した後に特性を評価した。[VO]などの各種欠陥濃度は、欠陥化学に基づき計算した。さらに、第一原理計算によりVOとCuの相互作用について評価した。 Cuがいずれの価数をとる場合でも、VOがCuの第1から第3近接サイトに存在する時に、0.5-0.9 eV安定化する。この結果は、VOがCuの隣接サイトに位置して、欠陥ダイポールを形成することを示している。その結果、Cu3+では自発分極方向に欠陥ダイポールが整列し、結晶中に内部電場が発生する。この内部電場が外部からの電界を打ち消すために、分極hysteresisは正電場にシフトする。これより,Cuイオンと酸素空孔からなる欠陥複合体の分極機能を利用することにより,シングルドメイン状態よりもマルチドメイン状態が安定化することが明らかになった.このマルチドメイン構造の安定化により,強弾性ドメイン壁のエネルギーを電気熱量効果に利用できることが示された. 電気熱量効果の直接測定系を設計・構築した.外部の温度を変化させることを想定して,チャンバーとしてテフロン製の容器を使用した.また,電圧印加・除去による試料の温度変化を高精度に測定するために,容器を真空に保つこと,および試料からの熱の逃げを極限まで抑えること,加えて極めて小さい熱容量・熱伝達性をもつ熱電対を用いて,電圧印加状態で試料の温度測定が可能な測定系を立ち上げた.試行錯誤の結果,0.01℃の精度で試料の温度を直接測定できるシステムを構築できた.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,分極性材料の「電場誘起相転移」と「欠陥分極機能」に由来する電気熱量効果を利用することにより,高エネルギー効率かつ温室効果ガスを使用しない新規固体冷却技術の実現を目指す.電場誘起相転移型では,電場Eが一定値を超えると小さい分極状態P1相から大きな分極状態をもつP2相へ相転移する.この相転移に伴い,分極Pが不連続に増大するだけでなく,この結晶構造の変化は1次相転移であるため,エンタルピー変化を伴う潜熱を蓄える.断熱状態で電場をオフにすると,高電場相で蓄えられた潜熱が放出されるため,結晶が冷却され,大きな温度変化が得られる.分極反転型では,欠陥双極子(マイナスに帯電したカチオンとプラスに帯電した酸素空孔から構成される欠陥複合体)と分極Pの相互作用を利用.欠陥双極子とPが平行に配列すると,結晶が安定化する.始めに,ダウンEを印加して結晶のPをダウン状態にして酸素空孔の再配列を促し,欠陥双極子をダウン方向へ揃える.この状態では,ダウンP状態が安定構造になる.欠陥双極子によりダウンPが安定化した結晶にアップEを印加すると,アップP状態へ変化する.この分極反転により,分極の変化量は2Pとなる.加えて,電場印加状態ではシングルドメイン,電場除去後ではマルチドメイン状態を取るため,電場除去により試料は強弾性ドメイン壁の導入に伴うエンタルピー変化が生じる.従って,この系では,分極の変化量は2Pに由来するエントロピー項と強弾性ドメイン壁に由来するエンタルピー項の相乗効果により,結晶が冷却され,大きな温度変化が得られる. ここでは昨年度得られた成果を基盤として,原子スケール構造解析と電子状態計算を援用し,冷却理論の構築・冷却メカニズムの解明を進める.また,冷却温度の直接測定と間接測定を別途行い,直接・間接同時測定系を実現するための課題を抽出し,その克服方法を検討する.
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Research Products
(11 results)