2019 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化対策に革新をもたらす新規固体冷却技術の開発
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17H06239
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野口 祐二 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (60293255)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | 強誘電体 / セラミックス / 格子欠陥 / 酸素空孔 / 分極 / 電気熱量効果 / 温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,次世代の冷却機器に利用可能な固体冷却技術を開発し,革新的な地球温暖化 対策を我が国に提供することを目的とする.極性材料の分極機能に由来する電気熱量効果を利用することにより,高エネルギー効率かつ温室効果ガスを使用しない新規固体冷却技術を実現する.固体冷却に影響を及ぼす決定因子を抽出し,原子スケール構造解析と電子状態計算を援用し,冷却理論の構築および冷却メカニズムの解明を行う. 昨年度までは,銅の価数を制御した欠陥複合体をもつセラミックス試料の電気熱量効果を評価した。昨年度に開発した高精度電気熱量効果測定系を用いて評価した結果,温度変化デルタTは電界(E)印加時にプラス0.5K,電界除去時にマイナス0.5Kを観測した。このデルタTから見積もったFigure-Of-Merit (FOM=デルタT/E)は25mKcm/kVであった。このFOM値は,相転移温度付近で薄膜試料の報告値よりも一桁大きく、室温で測定された中では世界最高のFOM値である。 今年度は、電気熱量効果の詳細測定を行った.いずれも分極反転を伴う温度変化であるにも関わらず明瞭な差が現れた。具体的には、シングルドメイン型がシングルドメイン→シングルドメイン間での分極反転が支配的であるのに対して、マルチドメイン型がシングルドメイン→マルチドメイン間の分極反転であることが挙げられる。両者の違いをランダウ理論に基づく現象論的に解析した。ヘルムホルツエネルギーにドメイン壁による分極の空間変調の項を導入した既報の計算によると、ドメイン壁の生成が吸熱過程であることが報告されている。マルチドメイン型試料が大きな電気熱量効果を示すのは、ドメイン壁の生成消滅によるものと結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強誘電体のエネルギー貯蔵・放出による温度変化に比べて,欠陥複合体を利用した新規電気熱量効果は,少なくとも0.4Kの温度変化が得られる事が明らかになった。このデルタTから見積もったFigure-Of-Merit (FOM=デルタT/E)は25mKcm/kVであった。このFOM値は,相転移温度付近で薄膜試料の報告値よりも一桁大きい。室温で測定された中では,世界最高のFOM値が得られたメカニズムを解明するために、ランダウ理論に基づく現象論的に解析した。 シングルドメイン状態における強誘電体のヘルムホルツエネルギーFは分極Pを秩序変数とする式で表される。ここでは分極ヒステリシスのシフトを表すため、シフトパラメータEshiftを用いている。この式はEshiftに関係なく、分極反転時のデルタPのみに依存する。分極反転が一定の電場で起こるとすると、定温条件において分極反転時に発生する熱量の絶対値はエンタルピーと等しくなる.この式から実測の分極特性と合うように調整した係数を用いて温度変化を求めると0.061 Kとなり、微小な発熱となった。一方、シングルドメイン→マルチドメイン間の分極反転にはドメイン壁の生成消滅を伴う。ヘルムホルツエネルギーにドメイン壁による分極の空間変調の項を導入した既報の計算によると、ドメイン壁の生成が吸熱過程であることが報告されている。マルチドメイン型試料が大きな電気熱量効果および大きなFOMを示すのは、ドメイン壁の生成消滅に起因することを解明した。これにより、格子欠陥とドメイン壁の相互作用を利用した材料設計が、電気熱量効果の増強に有効であるという従来ない指針が得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
格子欠陥とドメイン壁の相互作用を利用した材料設計を基盤として、高エネルギー効率かつ温室効果ガスを使用しない新規固体冷却技術の実現を目指す.現在までに,ドメイン壁の生成消滅に起因する電気熱量効果により,非常に大きなFOMが得られることを明らかにしている。 今後は,セラミックスのエージング条件を最適化することにより,分極の変化量の大きな試料を作製し,電気熱量効果の飛躍的な向上を目指す。具体的は,マイナスの電場を印加することにより試料を,down状態にした後にエージング処理を行う。この結果,down状態が欠陥複合体により安定化する。この試料に,プラスの電場を印加することにより,down状態からup状態に変化し,結果として分極変化量が倍増する。この試料の電気熱量効果を評価して,エージング条件が温度変化量に及ぼす影響を調査する。加えて,欠陥複合体の濃度が電気熱量効果に及ぼす影響も明らかにする。加えて,原子スケール構造解析と電子状態計算を援用し,冷却理論の構築・冷却メカニズムの解明を進める.また,冷却温度の直接測定と間接測定を別途行い,直接・間接同時測定系を実現するための課題を抽出し,その克服方法を検討する.
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