2019 Fiscal Year Annual Research Report
How fast can E. coli grow? - Investigating the efficiency limit of a proliferation system
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17H06254
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北原 圭 北海道大学, 理学研究院, 特任助教 (30567855)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2023-03-31
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Keywords | 大腸菌 / 増殖速度 / リボソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者は、生物システムを非生物システムから区別する性質である「自己増殖能」を効率性の観点から徹底的に理解することを試みるために本研究を実施している。特に、生命(=増殖)システムの本質を理解するためには、その化学的な最大効率を明らかにする必要があると考えた。究極的には2分とか3分とかで倍加するような生物を開発することを目指す研究を通じ、「最も生物らしいひとつのシステム」がどのように構築し得るのかについてアプローチしたいと考えている。今年度は、申請書記載の研究計画を実施するとともに、これまでとは異なる観点の研究項目も新たに取り入れた。まず、自然界から増殖速度が大きい(倍加時間が短い)バクテリアを探索する技術開発を進め、複数の高速増殖(分離)株を入手することに成功した。これらの株のうちいくつかは系統的に大腸菌と近縁であったことから、これらの株のゲノム配列を参照することにより大腸菌の増殖速度を高めることができるのではないかと期待している。次年度の研究では、この観点でのアプローチを用いた研究を具体的に展開したいと考えている。また、大腸菌の増殖速度を最大限に高めることができる培養条件を昨年度までに構築しているが、こちらについても更なる条件検討を行うことにより効率的に大腸菌を増殖させる条件が明らかになってきた。また、培地添加物として培地中に導入すると効果的であるいくつかの成分を特定することができたので、その条件を基本培養条件として固定し、上述の組み換え大腸菌の増殖速度が野生型の限界よりもさらに上昇するかどうかを検討していきたい。バクテリアの増殖に対する律速となるのは、タンパク質合成装置リボソームの主成分であるリボソームRNA (rRNA)の数であることが古くから指摘されている。高速培養条件、あるいは高速増殖株で翻訳系にそのような変化が起きるのかについても併せて検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生物の最も基本的な特徴の1つは、自己増殖を行う能力を有することである。すなわち、生物は自己増殖を行う化学システムである。この能力を最も高効率にて発揮しているのは、試験管内の富栄養液体培地中で対数増殖をしているバクテリアである。このような理想条件下では、各バクテリアは種に固有の増殖速度で増殖する。例えば最大増殖速度で増殖中の大腸菌や枯草菌は20 分おきに、緑膿菌であれば30 分おきに、結核菌ならば約13 時間おきに倍加することが知られている。本研究では、大腸菌を主な対象とし、大腸菌の増殖速度を早くするための研究を行っている。アプローチは大きく分けて2つあり、ひとつは遺伝学的手法あるいは遺伝子工学的手法を用いて大腸菌ゲノムを改変するというもの、もう一つは、大腸菌の生育環境である培地成分を最適化することにより、増殖をより速くするというものである。前者のアプローチからは、大腸菌はなぜ20分で倍加するのか、あるいは何がボトルネックとなってそれ以上の増殖速度が達成されないのかといったような知見を得ることができる。後者のアプローチからは、現存の培地は果たして大腸菌にとって最適化されているのか、もしされていないとしたらどのような成分が足りていないのかといった情報が入手可能である。現在どちらのアプローチに関しても良好な結果が既に出始めているため、論文化に向けてさらにペースを速めて研究を行っている。一方、第3のアプローチとして、自然界から高速増殖株を分離するアプローチも同時に行っている。様々な環境資料からバクテリアを増殖させ、増殖速度の大きいものを選択する実験系を開発し、いくつかの有望な分離株を取得することができた。今後、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析を行い、大腸菌のゲノムとの比較を行う予定である。この結果をもとに、大腸菌ゲノムを遺伝子工学的に改変できるかどうか検討していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
上述した2つのアプローチにより、大腸菌にとっての理想的環境を用い、最大限の速度で大腸菌を増殖させることが可能になってきている。加えて、第3のアプローチを用いることにより、その速度をさらに上昇させる方向で研究を進めていく予定である。一方で、増殖速度上昇のメカニズムを解明することも生物学的な観点から非常に意義が大きい。次世代シーケンサーを用いたゲノム解析を行うとともに、翻訳系に焦点を絞った以下の研究も行う予定である。バクテリアの増殖に対する律速となるのは、タンパク質合成装置リボソームの主成分であるリボソームRNA (rRNA)の数であることが古くから指摘されている(Bremer, J Theor Biol, 1975)。一方で、大腸菌細胞内のリボソーム濃度はすでに理論的な上限値に到達していることも指摘されている。したがって、最大増殖速度が上昇した大腸菌は、リボソーム濃度が増加することは考え難いものの、リボソームの翻訳速度や翻訳開始効率などが向上する可能性がある。ゲノム解析の結果と合わせ、大腸菌のタンパク質合成活性に変化が起きるかどうか調べる。具体的項目は以下の通り。 1:rRNA に変異が見つかった場合は、その変異をもつrRNA 遺伝子をクローニングし、大腸菌rrn オペロン欠失相補株で発現させる。リボソームの翻訳活性の変化は欠失相補株の増殖速度から評価する。2:リボソームタンパク質に変異があった場合は、ゲノム工学的手法で祖先株のゲノムに同じ変異を導入し、そのリボソームの翻訳活性を測定する。3:リボソームの生合成因子等に変異があった場合は、祖先株のゲノムに同じ変異を導入後、ショ糖密度勾配遠心法によりリボソームサブユニットの比率を測定する(Kitahara and Suzuki, Mol, Cell, 2009)。
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Research Products
(1 results)
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[Journal Article] Complete Genome Sequence of Staphylococcus arlettae Strain P2, Isolated from a Laboratory Environment2019
Author(s)
Hiroki Yu, Makoto Taniguchi, Kazuma Uesaka, Apirak Wiseschart, Kusol Pootanakit, Yudai Nishitani, Yota Murakami, Koichiro Ishimori, Kentaro Miyazaki, Kei Kitahara
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Journal Title
Microbiology Resource Announcements
Volume: 8
Pages: 1-3
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research