2020 Fiscal Year Research-status Report
Am Empirical Study on Buddhist Meditation and Mindfulness Through the cooperation of Buddshim, Psychology and Brain Science
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20K20323
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
蓑輪 顕量 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (30261134)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 隆嗣 こども教育宝仙大学, こども教育学部, 教授 (00322975)
今水 寛 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (30395123)
越川 房子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80234748)
佐久間 秀範 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90225839)
熊野 宏昭 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (90280875)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 不浄観 / マインドフルネス / セルフコンパッション / 認知的フュージョン / 幻覚 / 知覚変容 / 業相 / デフォルトモードネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
仏教班では林が初期仏教の集中瞑想における知覚の変容に焦点を当て、遍処という観察で相似相を増大させる試みが存在するが、不浄観ではそれをしないことに着目し、瞑想方法の多様化や合理化の過程を浮き彫りにして理論と実践の相互関係を明らかにした。また蓑輪は中国仏教の智顗の著作を通じて煩悩、業相、魔境に対する対処法を整理し、大乗の空の論理と慈悲及び初期からの念処が組み合わさり、マイナスの心の反応への対処法が出来ていることを明らかにした。佐久間は仏教学と心理・脳科学の接点を探る方法論を探求した。 心理学班では越川が止瞑想と観瞑想の実践順序が注意視野の広さを切り替える柔軟性に及ぼす影響を検討し、止を先に行うと注意視野の柔軟性が劣り、観を先に行うとその柔軟性が高くなることを非瞑想群との比較から明らかにした。またマインドフルネス尺度得点から、実験者の用いる言葉の重要性を示唆した。さらに倫理規定がマインドフルネス瞑想に与える影響を考察した。 熊野班はマインドフルネス集団療法のメカニズムを心理学と脳科学の両面から研究し、臨床介入試験の結果、思考を現実と捉えてしまう認知的フュージョンという傾向の減少が、うつ・不安の改善を説明することを明らかにした。マインドフルネス瞑想による負の反応を和らげる可能性がある自己への慈悲、すなわちセルフコンパッションを測定する方法を開発し、マインドフルネス集団療法によってセルフコンパッションが向上することを示した。加えてマインドフルネスとセルフコンパッションが両方高まることで、負の反応を抑え、心理的問題を緩和する可能性があることを明らかにした。 今水班は瞑想と内受容感覚に注意を向けている状態ではデフォルトモード・ネットワーク(大脳皮質の中心的な領域)内の結合が強くなることを発見し、心拍や呼吸への注意は瞑想訓練の導入として適切であることや幻覚の原因の可能性になるものを推定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
仏教学、心理学、脳科学の3分野からの協同研究であり、分野によっては人を被験者とした実験が必須であり、コロナウイルス対策のため必要な実験が十分に行えない状況が発生した。より充実した成果を出すために心理学の越川班と脳科学の今水班において研究期間の延長をせざるを得なくなった。また企画していた国際会議もオンラインに切り替えたので旅費が一切使用できなくなり、有意義に使用する方法を新たに模索しなければならなくなった。 今水班はfMRIを用いた研究で脳内の活動を計測することが必須の方法論であるが、コロナのために被験者を期待通りの回数、計測することが出来なかった。また研究の成果をより確実にするため、被験者のタイプすなわち瞑想初心者、熟練者などと場合分けをして実験をするためにも、もう少し時間を要することになった。越川班もコロナのために、被験者を集めることが困難になり、特に三つのグループに分けて行う集団実験が、コロナ対策のため、予想以上の時間を要することになった。コロナの状況を見極めつつより充実した研究にするため、期間延長を行うことになった。 しかし、一方で、順調に進んだ分野もある。たとえば仏教班は主に文献資料を用いた研究であり、コロナの影響をあまり受けずに、ほぼ期待通りの成果を出すことができた。初期仏典からの研究を担当する林は負の反応を考察する場合、『清浄道論』から遍処、不浄観が鍵になり得ることを見出して研究を纏め、蓑輪も智顗の著作を中心に、負の反応への対処を纏めることができた。また熊野班も負の反応を和らげる可能性のある要因を推定することができたし、佐久間も3分野を繋ぐ具体的なポイントを提言できた。 3年間の暫定的な成果ではあるが、分担者の皆で平易に纏めた本を出版することが出来たので、やや遅れている部分のあることは否めないが、一方でほぼ順調に研究を進めることが出来たとも言える。
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Strategy for Future Research Activity |
若干、covid-19のために遅れてしまった心理学、脳科学の分野を中心に述べる。covid-19感染対策を十分に施した上で、心理学班の越川は止瞑想から観瞑想への群、観瞑想から止瞑想への群、何もしない群の3群に対してNIRS/Emotiveのデータ収集と解析を行い、止観瞑想の実施順序の違いが、心理課題と脳に与える影響についてをテーマに総合的に考察する。熊野班はこれまでの研究で集めたデータの解析を行う。具体的にはマインドフルネスに関連する心理変数や日常生活下調査で得られた行動指標を用いて、マインドフルネス介入の奏功メカニズムを明らかにするとともに、慈悲心がマインドフルネスの実践効果に及ぼす影響を検討し、その成果を論文にまとめる。 脳科学分野の今水は脳内に存在するデフォルトモードネットワークと呼ばれる回路がとくに注意機能と関わる可能性が見えてきたので、今までの研究を継続し、特に瞑想経験者に注目し、個人のマインドフルネス特性に応じた考察を行う。止瞑想と観瞑想というトレーニングの順番によっても脳内のネットワークに与える効果が異なるのかにも着目し、考察を行なう予定である。 仏教学班では、心に生じる負の反応に焦点を当て文献学的に考察を重ねたが、仏典では負の反応に限らず正の反応(喜・楽など)も克服の対象にされることに鑑み、瞑想によって生じる心の反応全般にどう対処するのかという視点から考察を進める。具体的には林は、光明に焦点を宛てて考察を進める。蓑輪は止と観という言葉の意味するものが時代によって変遷することに鑑み、天台と並ぶ修行に関する言及を持つ法相宗を新たな対象に設定し、止や観の内実について、また心の反応に対する対処法について、特に日本の法相宗を軸に考察を試みる。また佐久間は改めて仏教学と心理学、脳科学の接点を構築するための道筋を、文献と実験の双方に目配りをしながら模索する。
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Causes of Carryover |
covid-19のため、被験者を集めて実験を行う分野の研究が、実質的に十分に出来なかった。感染症対策が厳しく行われたため集団による実験に大きな支障が生じた。また同じ理由で、旅費をまったく使用することが出来なかった。このような状況下、より研究を充実させるために、次年度への繰り越しを行った。実験が十分に行えなかったのは心理学分野の越川と脳科学分野の今水であり、改めて感染症対策に留意しながら被験者を集めて実験を進める。 今水を中心としたグループは瞑想経験者の脳活動計測を引き続き行う。具体的には,瞑想時の脳活動,安静時の脳活動、および呼吸や心拍に注意を向けるなど内受容感覚に注意を向けたときの脳活動を計測し、瞑想時の脳の状態と,内受容感覚に注意を向けた時の脳の状態を比較する。特に、デフォルトモード・ネットワークと他のネットワークの関係性に着目して解析を進める予定である。また、越川班も被験者を三つの群に分けて、しかも集中瞑想と洞察瞑想の2種類の瞑想を行う順番に着目して、データ解析を進めて行く予定である。具体的にはNIRS/Emotiveのデータ収集と解析を行い、止観瞑想の実施順序の違いが、心理課題と脳に与える影響について総合的に考察する。 また今までの研究の成果(中間ではあるが)を広く知らせるための手立て(本の贈呈など)を講じる予定である。
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Remarks |
2021年3月10日、タイのマヒドル大学の先生方と協同して開催したオンラインの国際シンポジウム。
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Research Products
(28 results)