鯨類の繁殖に果たす脂肪組織の役割の解明

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K20373
• Research Institution: Mie University
• Principal Investigator: 吉岡 基 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (30262992)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 鈴木 美和 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70409069) ; 船坂 徳子 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (50616175)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: イルカ / 脂皮 / 甲状腺 / ホルモン / 水温

Outline of Annual Research Achievements

鯨類には他の哺乳類には例をみないブラバー（脂皮）と呼ばれる厚い皮下脂肪組織が形成されるが，この厚さや構成成分が個体の繁殖活動と生理学的にどのように関わっているかについてはまったく知見がない．そこで，「脂肪組織を介した器官間のクロストークが鯨類の繁殖を制御する」という仮説に対し，この検証を行うために必要な実験に引き続き取り組んだ．具体的には，複数の水族館から年間を通した血中ホルモン濃度，その他血液生化学成分の分析に必要な雌ハンドウイルカ（成熟個体 n=3，未成熟個体 n=5；動物の状態により，成熟個体は昨年度より1個体減）からの血液試料の毎月の定期採取，およびブラバーの採取を前年度までに開発を完了した採取器具を用いて，4季節（4，7，10，1月）に実施した．これにより，血液試料，生検試料いずれも2022年1月までに年間を通した採取を完了した．血液試料は，一部の試料を用いて，LC-MS/MS（液体クロマトグラフィー質量分析）法による性ステロイド濃度の測定を実施した．脂皮試料は，すべてRNAseq解析（遺伝子発現解析）を行った．性ステロイド濃度の測定結果は解析中であるが，脂皮中の遺伝子発現状況については，RNA-seqにより，ブラバーにおいて視床下部－下垂体－生殖腺軸に直接作用する複数の物質が発現していることを見出した．また，このうち，卵の透明帯を保護する役割を持つFETUBが相対的に発現量が多く，また成熟個体で未成熟個体よりも高い値を示したため，季節，性成熟の度合いによる差，組織内分布等について精査している．

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

COVID-19感染拡大により，水族館に赴いての試料採取が前年度までに計画通りに行えず，当初予定の4季節をカバーできたのが2022年1月まで大幅に遅れ，入手した試料の分析まで行う時間を研究期間内に確保できなかった．

Strategy for Future Research Activity

年間を通した実験対象個体からの定期的な採血と生検脂皮試料はすべて採取が完了したため，今後は，遺伝子解析と性ホルモン濃度の測定結果の解析，さらに未測定の甲状腺ホルモンの測定を行い，得られた結果をすべて対比させて，総合的な解析を行い，得られた結果について，学会発表や論文投稿の準備を進める．また，ここまでの過程で開発の進んだ生検採取器具に関する論文作成を行う．

Causes of Carryover

本年度中に，本研究のために必要な試料の採取を行うことはできたが，それらを用いた追加のホルモン分析が未了であるため，次年度使用額が生じた．翌年度分としての新規請求はないため，この次年度使用額を用いた追加のホルモン分析結果とあわせ，年度末に報告された依託分析結果も含めたデータの総合的な解析を行い，論文作成・投稿を行う計画である．