2020 Fiscal Year Research-status Report
機械学習を用いた東アジア数理調和思想の実証的研究と共生倫理の検討
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20K20500
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊東 乾 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 准教授 (20323488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 有紀 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10632680)
呉本 尭 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (40294657)
陳 捷 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40318580)
石原 茂和 広島国際大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (90243625)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 術数学 / 機械学習 / 古琴 / 暦法 / マインドフルネス(八正道・正念) / 曼荼羅 / 仏像・彫刻 / モルフォメトリクス |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度当初からの新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響は甚大で本研究も本質的な動機を一貫させつつ、研究手法については安全を第一に詳細な検討を行った。東アジア数理調和思想の実証研究に関しては、ヒトを対象とする測定研究をソーシャルに安全なものとするシステムやデバイス開発を優先し、リモートないしウイルスフリーな研究手法の開発、機械学習システム構築などは安全性が確保された第二年度以降に実施するものとした。数学の観点からフーリエ級数など円関数、調和解析の手法を活用する念頭で円相の基礎研究を進め、古代アーリア語族で円を意味するMandalaと車輪、天文観測などを軸としてより拡大された研究の射程を確定することができた。また「共生倫理」については喫緊のコロナ下での共生に焦点を絞り、円相から仏教「八正道」の第七「正念Mindfulness」(正しく状況を認識する)を鍵語に研究が大幅に具体化、結果的に当初の計画を大きく上回る成果が得られた。 儒教とりわけ明清期の中韓日で朱子学と共に発展した術数学研究を骨子としつつ(田中、陳)、とりわけ古琴にまつわる調和感(田中、伊東)、朱子学から陽明学が「禅」と批判された事実を起点に、仏教に内在する術数とくにチベット曼荼羅の幾何的分類、曼陀羅の原点である法輪と仏説経に内在する数理的、幾何的構造を核とする仏舎利塔(ストゥーパ)の分類、ガンダーラ仏等ヘレニズム期に東西を結んだ車輪の幾何、機構学と暦法との関連等シンプルな数理構造を核として、とくにアレクサンダー都市で多用された理想調和比を活用する彫像の量産法が仏像や建築、曼陀羅などの形で拡散するプロセスが確認された。データ駆動科学の方法にモルフォメトリクスなど計測手法を導入し(伊東、石原、呉本)、古琴演奏などと並行して仏像、曼陀羅や寺院建築など、より幅広のウイルスフリーな対象を含めて解析する方針を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コロナ以前の計画では、本研究は上海、ソウルなどの海外研究拠点を結び、儒教とりわけ朱子学の理気二元論を核とする東アジア術数学を前提に、孔子に遡る紀元前からの古琴伝承を縦軸として、演奏の身体運動を機械学習解析、「減字譜」に記されることのない時間軸に沿った調和構造の検出を目指していた。そのため各国との出張交流と現地でのハイスピードカメラ、高サンプリング周波数録音での系統だったデータテイクを予定していたが、コロナ禍のため安全性に鑑み、リスクの考えられる研究手法はすべてこれをいったん凍結、安全性を確認するまで研究費の執行等は控え、身体生命の安全を第一に、基礎的、理論的な確認と周辺デバイス開発等を進めた。代表者の背景は物性物理で、安全に測定を実施するために必要なソーシャルなARヘッドセットを準備したが、使用する素材として筑波大学の白川英樹名誉教授から提供された新素材の物性チェックから、新たな量子化電流を発見するなど隣接分野に明らかに予想を超えた成果が得られた(投稿論文査読中)。 朱子学を一つの柱とする術数は朱サイイクによる十二平均律=2の12乗根の導出など算法が中心的だが、ラプラス関数など調和解析を前提とすれば円を対象とする幾何を考えるのが有効かつ有利である(べき根の求積は円に内接する正多角形の作図に相当する)。そこでガウス/アーベル/ガロア由来の代数幾何を念頭に術数全般を検討、時代を問わず常に参照される暦と円の分割の観点からMandala(回転、円、円盤などを意味する)に関連する古典(アヴェスタ、リグ・ヴェーダ、原始仏典等は日英語、ユークリッド原典やウィトルウィウス建築書、プリンキピア、ガウス整数論などはギリシャ語ラテン語)で確認する作業を通じて、遍在する調和概念を改めて確認、モルフォメトリクスなどの手法を活用するデータ駆動科学研究が可能な基本メカニズムを体系的に整理する事ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に、安全をみて準備したソーシャル/ウイルスフリーな測定手法を活用し、第二年度は、当初計画通りの文献研究、機械学習ワークステーション構築、ソーシャルな環境を整え、古琴の打譜とそれに対応する洋楽との比較など、東西奏楽の身体運動機械学習解析を進めるとともに、初年度拡充した理論的基盤をもとにより深い実証研究を推進する。 これに当たってはソーシャル(ヒトを対象とするデータテイク)/リモート(物理的に遠隔でのヒトを対象とするデータテイク)/ウイルスフリー(人以外の対象:仏像や彫像、曼陀羅、建築物やその設計図、式典や奏楽における配置図など、ウイルス感染の恐れがないデータ全般)のすべてに関して、コロナ禍状況下での円滑な研究推進を、身体生命の安全を第一に進めてゆく。文献学的研究(陳研究室)、その術数学的検討(田中研究室)、古琴であれば打譜に相当する実際のデータテイク(伊東研究室)、動作解析の東西比較(石原研究室・伊東研究室)と、より強力なAIワークステーションとビッグデータベース構築(呉本研究室・石原研究室・伊東研究室)の基本的役割分担のもと、系統だったシステムを確立、新知見の探索を進める。 また初年度から継続して、ソーシャルで安全な環境でのデータテイクを可能とするシステム、そのためのデバイス開発なども継続して進める。 とりわけ従来は「算法」と「幾何」に二分されることの多い数理研究に関して、古代数理文献から確認される「作図」の共通性に鑑みて、新たにモルフォメトリックなデータ駆動解析手法を確立、従来は調和解析的な観点から検討されてこなかった対象(曼荼羅の幾何学的分類、ガンダーラ仏を共通項とするヘレニズム・ウィトルウィウス的身体と仏像の3次元定量解析等による数理調和比の決定などまで)機械学習のコンピュータビジョンを導入によって従来は評価できなかった調和の数理構造を系統だって明らかにしてゆく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の蔓延のため、安全を最優先することを決定し、まず国内外の出張をすべて第一年度はとりやめ、ヒトを対象とする測定などもソーシャルな安全環境を確保してから進めることとし、物理的な遠距離出張を伴う機械学習ワークステーションなどシステム構築も、コロナの収束状況を見つつ第二年度に安全を確保してから開始することとした。 このため、安全環境確立のための準備以外の経費を初年度は執行していない、 第二年度では、上記のように、機械学習とビッグデータベース構築のための関連システムを立ち上げると共に、移動旅費として計上した予算をリモート研究、ソーシャルな測定などに転用活用し、安全なデータ定キングを実現するシステムインテグレーションを並行、パンデミック下での国際共同研究をレジリエントに実現する計画を立案、実行完遂する。
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Research Products
(13 results)