2021 Fiscal Year Research-status Report
機械学習を用いた東アジア数理調和思想の実証的研究と共生倫理の検討
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20K20500
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊東 乾 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 准教授 (20323488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 有紀 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10632680)
呉本 尭 日本工業大学, 先進工学部, 教授 (40294657)
陳 捷 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40318580)
石原 茂和 広島国際大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (90243625)
青木 直史 北海道大学, 情報科学研究院, 助教 (80322832)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 東アジア / 術数学 / 調和解析 / 平均律 / データ駆動科学 / 共生倫理 / 非線形共鳴 / デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は東アジア術数学とそれに基礎づけられた東アジア音楽の調和構造をデータ駆動科学を活用して明らかにすると共に、新知見をもとに調和の解析や新たなシステム創成に洋の東西を止揚した成果を生み出そうとする挑戦的研究である。 第二年次は調査、理論、解析、実証、システム開発、共生倫理検討の各面でいずれも予想を超える成果が得られた。これらを連立し更なる研究の深化、具体化と後継プロジェクトへの大胆な展開を企図してゆきたい。 2019年度に立案された本研究プロジェクトは、2020年度の開始当初、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延のため、国際共同研究の推進をセキュアかつソーシャルなものとする予想外のスタートを切らざるを得なかった。だが、日韓中3か国を結ぶ旅費の執行が困難になった分、セキュアかつソーシャルなシステム開発という新たな課題に挑戦することとし、被検者測定のための測定デバイスとして、永年の共同研究者・白川英樹筑波大学名誉教授(2000年ノーベル化学賞受賞)のご指導のもと、ウイルスフリーな測定環境を実現するピエゾ聴覚アクチュエータの開発に取り組んだところ、研究開始直後に2次元電子系の量子化ステップ電流の発見(LEE&ITO)という予想外の成果を得る事が出来た。 第二年次はこうしたデバイスも活用しつつ、本来の機械学習・データ駆動科学を活用した東アジア術数学のテキストベースならびに東アジア音楽調和の解析、東アジア主要大学を結ぶ術数学ネットワークの構築と原資料目録の作成・デジタイズ、先行研究で死角となっていた課題の発見と理論実験双方からのメカニズム解明、研究法自体の刷新に取り組み、さいわい各々で顕著な結果を得る事が出来た。特にデータ解析強化のため北海道大学の青木直史助教がメンバーに加わった。グループ全体で論文19報、学会登壇22件の成果が得られ、シンポジウムも開催した。具体的成果は次項に記す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は第一年度の開始直前から新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延で「コロナ対応シフト」を余儀なくされたが、おかげで従来研究がカバーしない新知見が得られ始め、予想を上回る成果を収めつつある。 理論面、また共生倫理の検討では「車制のテクノロジー(工人記録)と楽律・術数」「鐘の鋳造と調和術数」「仏教教義と調和術数の連関」「『曼荼羅』の幾何へのヘレニズムの影響」「正念(Mindfulness)概念のテクスト機械学習解析に基づく共生倫理の検討」「墨子の非調和概念(非樂)と非常事態の共生倫理からの検討」など従来の枠を超えた挑戦的な新たなテーマに着手し、初期の新知見が得られた。 資料調査面では東アジア各研究拠点の1次資料目録作成を進め、新型コロナウイルス感染症による研究制約が緩和された暁にはデジタル化、ネットワーク化と機械学習解析システムの構築に備えている。 データ駆動科学の基礎的な解析面では古典的な三分損益や古代西欧のピュタゴラス音律、純正律や平均律などと本質的に異なる非線形引き込みによる調和の定量解析をスペクトル線幅解析の形で定式化、システムを構築した。またこれに伴って極めて高い周波数分解能(0.01Hz単位)での高速フーリエ変換を実現するSparceFFT計算を創始、その基本的な特徴を明らかにし、新たな非線形調和解析の基礎的なツールを準備した、 これらを用い代表的な東アジア民族楽器、標準的なオーケストラを構成する全楽器の音色スペクトル線幅解析を行い、古琴やコムンゴのスペクトル線幅が極めて広い事を初めて実証的に示した。また民族音楽学創始当時から半世紀に渡って活用されたエジソン蝋管蓄音機のワウフラッター解析から、バルトークらパイオニア世代が半音以下の音程精度を出せなかった背景を実証した。またデバイス創成の開発面では導電性高分子ナノ薄膜を活用する新モジュールの基本特性データが得られ始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は第3年度に当たるため、3年スパンでの研究中間取りまとめの予定と、新型コロナウイルス感染症の国際的蔓延収束など先行き不透明な状況下での中長期的展望、双方を記す。 理論面また共生倫理の検討面では新型コロナウイルス感染症の収束状況を見つつ、北京、上海またソウルの海外拠点とのサーバ・ネットワーク構築を進めたい。但し2022年初に始まるオミクロン株の爆発的流行のため不確定な側面がある。プロジェクトとしては身体生命の安全を第一に、中長期的展望のもとにセキュアかつソーシャルな環境で基礎から積み上げたい。 共生倫理の検討に関しては2022年2月に勃発したしたロシア連邦によるウクライナ侵攻を挙げねばならない。本研究ではすでにガンダーラなど現在のパキスタン西北部での幾何、車軸、天文などの東西融合を扱っているが、中央アジア、ソグディアナ~トランスオクシアナはアレクサンダーの東遷/フン・ゲルマンの西遷/イスラム/モンゴルすべてに共通する侵入路で、モンゴルの場合はカルカ河畔(現ウクライナ・マリウポリ近郊)を経てクリミアに至りビザンツと接した。2022年度は東西複数の共生倫理の術数的比較に着手、異なる複数の正義の共生を検討したい。調査面では資料目録作成、デジタル化、ネットワーク化の準備を進め、パンデミック終息後の国際共同研究ネットワークの拡充に努める。データ駆動科学解析では、新たに確立した非線形調和解析の諸手法とコロナ禍で控えていたモーションキャプチャを用いる画像解析を併用して分析を進める。デバイス創成の開発面ではナノ薄膜新モジュールを実用化し、リハビリテーション科学手法を用い術数調和と演奏行為の相関を明らかにする。 来年度以降東アジアから西域を経てクリミアに至る東西文化衝突諸地域での調和思考を新たな非線形の切り口で比較するユーラシア術数学と共生倫理研究へと発展的に継続推進の方針である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行と、政府の蔓延防止措置、大学の予防措置などによって研究実施計画の細部、システムのセットアップなどに遅延が生じた。次年度前半に後れを取り戻す計画を再立案、実施する。
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Research Products
(44 results)