2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K20547
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 真人 京都大学, 化学研究所, 助教 (10813545)
市川 能也 京都大学, 化学研究所, 技術職員 (70365691)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 遷移金属酸化物 / 熱量効果 / エントロピー変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近年、熱に関する問題がさまざまな形で顕在化する中で、社会からも強く求められている熱エネルギー問題の解決に資する新材料の開発を目指すものである。その中で特に熱量効果を示す新材料に注目して研究を行っている。 今年度は、高温高圧合成法を駆使して、準安定・非平衡な領域にまで合成範囲を広げた新物質開発を進めてきた。その中で、Aサイト秩序型ペロブスカイト構造鉄酸化物NdCu3Fe4O12が、室温近傍でサイト間電荷移動転移による1次相転移により大きな潜熱が発生することを見出した。この大きな潜熱を引き起こすエントロピー変化は、中性子磁気構造解析から、電荷転移に伴う磁気エントロピーの寄与が大きいことを明らかにした。更に、この巨大な潜熱を圧力により取り出すことができる圧力熱量効果として制御可能なことを実証した。測定した圧力熱量効果は、これまでに無機固体材料で報告されている最高値に匹敵する大きなものである。 また、Aサイト秩序型ペロブスカイト構造鉄酸化物NdCu3Fe4O12のAサイトイオンを置換することで、相転移温度が変化する。これらは、熱量効果が最大となる温度域を制御できる可能性を示すものである。 実証した巨大圧力熱量効果は、従来とは異なる新しいメカニズムに基づく熱量効果として基礎研究のみならず、室温付近での大きな値から、高効率な冷却を実現するエネルギー材料応用としても重要な成果である。また、測定したNdCu3Fe4O12では圧力熱量効果を実証したが、この系では電荷―スピン―格子が強く相関していることを考えると、マルチ熱量効果へと発展する可能性のある重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高圧法による新物質合成では従来よりも高圧力・高温度での合成が可能となる装置改良が進み、それにより、現在までにいくつかの興味深い物性を示す新物質を合成することに成功した。また、熱測定に関しては、比熱測定に加えて、シリンダ型加圧式示差熱測定による圧力熱量効果を測定する技術を確立した。 熱特性制御に関する新物質開発では、高温高圧合成により得られた異常高原子価イオンを含んだAサイト秩序型ペロブスカイト構造鉄酸化物NdCu3Fe4O12が、その異常高原子価状態の不安定性解消に起因するサイト間電荷移動1次相転移に伴い巨大な潜熱を示すこと、この大きな潜熱を引き起こすエントロピー変化が磁気モーメントの変化に起因すること、さらにはこの大きな潜熱を圧力巨大熱量効果として取り出すことが可能なことを実験的に実証した。また、NdCu3Fe4O12のAサイトイオンを置換することで、電荷移動相転移温度が変化し、圧力熱量効果が最大となる温度域を制御できることも示した。一連の結果から、異常高原子価イオンを含んだ酸化物が、電荷―スピン―格子が相関した相転移を示すことで、大きなエントロピー変化を起こす可能性が高く、これを利用することで熱制御材料として発展させられる可能性があるという材料設計指針を示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
NdCu3Fe4O12で見出した大きな潜熱は、圧力熱量効果として取り出すことができることを示したが、重要な点は、この大きな潜熱を引き起こす主なエントロピー変化が磁気エントロピー変化の寄与によるものであることである。NdCu3Fe4O12は反強磁性を示すため、この磁気エントロピーを直接磁気熱量効果として利用することはできないが、関連物質において強磁性的な特性を示す物質を開発することで、磁気熱量効果も示すマルチ熱量効果の開発につなげることができる。今後はマルチ熱量効果材料の開発に注力した物質合成を進める。2020年度の成果を基に考えると、特に異常高原子価イオンを含んだ遷移金属酸化物が注目すべき対象となる。異常高原子価イオンを含んだAサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物を中心に電荷―スピン―格子が相関した相転移を示す材料の物質合成をすすめ、特に複数の外場による熱量効果を示す新材料の探索を進める。 新物質合成では、高温高圧法を中心とした特異な合成手法を発展させる。これら、準安定・非平衡な領域にまで合成範囲を広げた物質合成は、新物質探索の有用な手法である。また、本研究では、新物質の構造評価において、量子ビーム大型実験施設を使った実験による精密な結晶構造解析を行うことも特徴としている。海外の大型実験施設での国際共同研究を積極的に活用する予定であったが、2020年度はコロナ感染症拡大の影響により、海外施設での実験に直接参加することはできなかった。予定していた実験の一部は、試料を送付して現地スタッフに測定を依頼することで行ってきた。2021年度は現地参加実験と試料送付実験を上手く連携させて研究を更に進展させる予定である。特に、圧力や磁場など、特殊環境下での構造評価実験も取り入れていく。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症拡大の影響により実験出張が変更となり、それに伴う旅費が減額となった。また、一部の購入予定であった実験用消耗品の購入が2021年度に変更したため、物品費が減額となった。 2020年度予算差額分は2021年度予算と併せて2021年度に使用予定である。
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Research Products
(9 results)