2020 Fiscal Year Research-status Report
Understanding and application of microbiota in building environment: creation of pathogen control theory by temperature control
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20K20613
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山口 博之 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (40221650)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢野 理香 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (50250519)
大森 亮介 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 准教授 (10746952)
大久保 寅彦 北海道大学, 保健科学研究院, 講師 (90762196)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 温度制御 / 公共環境 / 環境細菌 / 乾燥抵抗性 / エアサンプラー / nhaA |
Outline of Annual Research Achievements |
消毒剤や抗菌剤に頼らない温度による新たな病原体制御理論を創成し、温度制御による感染防止策へと応用を目指すために、初年度は以下の研究を行い幾つかの成果を得た。 1. 空気を効率良く採材するために開発した3Dプリンター自作エアサンプラーのスペック検証: 野外にて4ヶ月間(37検体)をかけ検証した。その結果、このエアサンプラーが従来法に比べ空気中の細菌を効率良く捕獲できることを確認し、捕獲した細菌数と湿度および風速に間に有意な相関関係があることを見いだした。またこのエアサンプラーを用いることで空気中から原生生物(繊毛虫Colpoda)の捕獲にも成功した。 2. 乾燥面での病原細菌の生存性を規定する因子の探索: 大腸菌のTn挿入変異株ライブラリーを構築し責任遺伝子を探索した結果、Na+/H+トランスポーターnhaA遺伝子の同定に成功した。またnhaA遺伝子欠損株では、乾燥面での大腸菌の生存性は有意に低下し、その相補株では乾燥面での生存性は回復した。さらにNhaA阻害剤2-Aminoperimidineが乾燥名での大腸菌の生存性を有意に低下させる作用を持つことも見いだした。 3. 温度制御ができる乾燥面手摺デバイスプロトタイプの作成とその効果検証: 手摺にハンドヒーターを装着することにより温度制御可能なデバイスを作成した。大腸菌を塗布した手袋を用いて握ったデバイス上の生菌数を算定した結果、37℃前後に温めることで生菌数が低下する傾向にあることを見いだした。 4. フィールド調査データを用いた数理モデルによる微生物動態の理論化: 1で得られたデータを用いて新たなフイッティングモデル式の探索を行ったが、最適なモデル式の構築には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画書では、実際の公共環境(札幌地下歩行空間と札幌市の病院)での空気の採材や温度制御デバイスの検証実験も予定していたが、新型コロナ感染症の影響で困難であり、それらフィールドデータが得られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の推進方策(1-4)に基づき研究を遂行していく予定である。1. 札幌地下歩行空間での3Dプリンター自作エアサンプラーを用いた空気の採材: 新型コロナ感染症の影響で実施できなかった地下歩行空間での空気の採材を継続的に実施し、空間に浮遊している微生物を生け捕りにする。また次世代シークエンサーを用いた微生物メタゲノム解析(生菌レベルでの耐性菌モニタリング、ウイルスの検出、原生生物の生け捕りなども実施)と捕獲した細菌数および叢と温度を含む環境要因(湿度、気圧、微粒子数、通行人数など)の変動を調査する。捕獲した細菌数と環境因子との間の関連性も検討する。2. 乾燥面での病原細菌の生存性を規定する因子の探索: 乾燥抵抗性に寄与するnhaA遺伝子の大腸菌の乾燥面での生存性を規定する機構解明を行う。nhaA遺伝子欠損株の菌体が伸長することから、細胞壁の合成系におけるnhaA遺伝子の役割について検討する。また乾燥面での温度制御には、その場の湿度の影響が無視できないので、温度のみならず湿度も厳密に制御した上で、乾燥面での大腸菌の生存性を精査する。3. 手摺デバイスプロトタイプの作成と院内環境での検証: 温度制御手摺デバイスをナースワゴンなどに装着できるように改良を加え、院内環境での検証実験(温度制御デバイスを用いることで手指細菌数などがどのように変動するのか明らかにするためのもの)を目指す。その予備的な効果検証実験をボランティアを募り行う。4. 数理モデルによる微生物動態の理論化に向けた検討: 温度調整による微生物の宿主集団中(地下歩行空間)での増減を理論的にも再現し予測できるようにするために、環境因子(温度、湿度、気圧、通行人数、空間に浮遊する微粒子数)とメタゲノムデータを用いて、環境因子を踏まえた微生物叢の動態を記述する数理モデルの構築を試みる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、公共環境(札幌地下歩行空間と札幌市中病院)での空気を採材することができず、それに伴い実施する予定であったメタゲノム解析を取りやめたために生じたものである。その一方で、野外環境から原生生物(繊毛虫)の捕獲に成功した。そこでそれら原生生物の特徴を精査(公共環境から捕獲されたヒト病原細菌との相互作用の検証も含む)するために、オールインワン蛍光顕微鏡のリース契約を結んた(本助成金終了時にはリース会社より無償譲渡)。本年度は、公共環境からの空気の採材を継続的に行い、微生物の捕獲のみならずメタゲノム解析(外注)を精力的に実施する予定である。
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