2020 Fiscal Year Research-status Report
戦災のもたらす心霊現象の社会学:〈見えないもの〉の記録と継承
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20K20791
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
根本 雅也 松山大学, 人文学部, 准教授 (00707383)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 戦災 / 地域社会 / 伝承 / 超常現象 / 心霊現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、体験者による証言や教育などとは異なる「戦争体験の継承」のあり方を探求するため、戦災にまつわる心霊・超常現象に着目し、それらを掘り起こすとともに、戦災による死者と地域社会の関わりを探るものである。 研究計画においては、東京と広島をフィールドとして、空襲と原爆という戦災にまつわる心霊・超常現象を調べていく予定であった。しかし、令和2年度は新型コロナ・ウイルス感染症の影響により、現地調査がほとんど実施できないままに終わった。その中で行ったのは、資料の収集、関係者への問い合わせ、そして関連する研究成果の発表である。 広島の原爆に関連して、オンライン等による資料収集や現地調査を通じて見えてきたのは次のことである。(1)近年になって、広島の原爆にまつわる怪談などが書籍などに収められていること、(2)長崎では、被爆後それほど時間が経過していない時期に出版された書籍の中に「幽霊」に関する記述があり、「幽霊」の存在が噂されていたことが伺えたこと、(3)原爆投下以前から存在する広島の民話には狐といった超常的存在が言及されているものの、そうした存在と原爆との関わりを示唆する民話はみられない(まだ見つかっていない)こと、(4)「新しい民話」として児童文学の中に原爆に関する物語が記述されていること(たとえば山口勇子による『おこりじぞう』など)である。 他方、令和2年度は、以前に実施した調査をもとに、原爆被爆者の身に起きた超常現象(幻覚/vision)の経験についてまとめ、発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、東京と広島をフィールドとして、空襲と原爆という戦災にまつわる心霊・超常現象を調べていく予定であった。しかし、令和2年度は新型コロナ・ウイルス感染症の広がりにより、現地調査がほとんど実施できなかった。特に東京は、所属機関によって移動自粛の区域に指定された期間が長く、現地での調査ができなかった。他方、広島では、これまでの調査を通じて得た経験やネットワークから、関連する調査を一定程度進めることができた。手探りながら資料収集を実施したほか、これまで築いたネットワークから情報収集を行っている。 また、もともとシンガポールで開かれる国際会議に参加し、同地での調査も試みる予定であったが、こちらも新型コロナ・ウイルス感染症の影響で会議そのものが延期となった。 以上のように、主に感染症の世界的流行を背景として、研究として遅れがみられるものの、次年度に向けた下地はできたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、(1)可能なかぎり現地調査を実施すること、(2)遠隔でも可能な調査を進めることがある。(1)については、新型コロナ・ウイルス感染症の流行の展開に応じて臨機応変に現地調査を行っていきたいと考えている。広島・東京においては、関係する資料館等を訪れ、資料の収集のほか、感染症対策をしながらインタビューの実施を試みることにしたい。他方、現地調査については令和3年度も不透明であることから、(2)遠隔での調査を積極的に進めていきたいと考えている。具体的には、国会図書館でのオンラインでの資料探索と遠隔複写や、関連する研究者や学芸員への問い合わせとオンラインでのインタビュー、これまでに収集したインタビューやフィールドノートの再整理などである。 また本研究では戦災を対象としているが、東日本大震災を中心に災害研究の中で同様の研究が散見されるため、関連研究の掘り下げを行なっていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の流行により、現地調査が著しく制限されたため、次年度に繰り越すこととなった。
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Research Products
(5 results)