2021 Fiscal Year Research-status Report
シャコガイ殻の日輪計測と炭酸凝集同位体法による1000万年間の地球自転速度の復元
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20K20932
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邊 剛 北海道大学, 理学研究院, 講師 (80396283)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 敦子 九州大学, 理学研究院, 助教 (40723820)
駒越 太郎 特定非営利活動法人喜界島サンゴ礁科学研究所, 研究部門, 研究員 (90868407)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 自転速度 / シャコガイ殻 / 炭素凝集同位体分析 / 成長線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は昼と夜に貝殻を開閉し太陽日輪を刻むシャコガイ殻化石を用いて、過去1000万年間の地球の自転速度を復元することを目的とする。1)シャコガイ 殻の太陽暦(日・年)キャリブレーション、2)化石シャコガイ試料の採取と年代測定、3)現生および化石の成長線解析と炭酸凝集同位体分析を行い、シャコガイ殻に記録される公転周期の中に、日輪が何本刻まれているかを計測し、過去の自転速度を復元する。本研究は世界初の地球自転計を目指すものであり、その成果は化学分析の必要ない新しい年代決定法の開発や古代天文暦の謎を解明するなど多分野への強い波及効果が期待される。地球の自転速度は地質時代を通じて海水やマントルと地殻の密度の差による摩擦力により減速しているとされているが、有史以前は自転速度を見積もることのできる観察記録が存在しない。また、過去の自転速度を直接的に復元する方法はなかった。現在の地球の条件では自転周期と原子時計にズレが生じ、約500日に1秒の閏秒が挿入される。自転速度の変化は、”海洋にかかる遠心力を変化させ地球の海水準を変動させる”、”地殻の扁平率を減少させ地球表面の日射量を増大させる”、”プレート運動の歪みを増大させ地震を発生させる”など、地球の気候変動や地殻変動への影響が示唆されているが、地球史を通じた過去の自 転速度の直接データは存在せず地球環境変動との相互関係はこれまで議論されていない。本年度は飼育実験のためのシャコガイの採取ならびに、完新世および更新世のシャコガイ化石試料を追加で採取を行い、今後年代測定を行う予定である。また、シャコガイの炭素凝集同位体比測定のために、現生及び完新世のシャコガイ化石試料の酸素同位体比測定を行い、酸素同位体比水温計の作成を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)シャコガイ殻の太陽暦(日・年)キャリブレーション:鹿児島県大島郡喜界島で現生シャコガイ9個体を新たに採取し、屋外水槽で飼育を開始した。飼育水槽に照度および温度ロガーを設置し、日射量、日照時間、水温の観測を実施している。また、昨年度採取し飼育したシャコガイの殻を採取し、貝殻の切断、研磨、デジタル顕微鏡観察ができるよう設備整備できた。しかし、成長線の観察・解析の遅れや、感染症拡大に伴う飼育現場への来訪自粛などにより当初計画していた殻体運動記録装置が未導入であり、キャリブレーション研究に遅れが生じている。 2)化石シャコガイ試料の採取と年代測定:喜界島、与論島、種子島、東ティモールアタウロ島でシャコガイ化石試料の採取を行い、パプアニューギニア、インドネシアジャワ島、フィリピンルソン島北部およびセブ島で報告されている化石試料の整理を行なった。本年度、喜界島では完新世~更新世、種子島では現生、与論島、東ティモールでは更新世のシャコガイ殻試料を採取した。また、インドネシアおよびフィリピンルソン島北部とパプアニューギニアの化石は分担研究者が解析できるよう、試料整理と移動を実施した。試料の保存状態による選別と確認を行えたが、年代測定の工程まで進めず作業が遅延している。 3)現生および化石の成長線解析と炭酸凝集同位体分析:炭酸凝集同位体温度計の開発のために、既存のSr/Ca比とロガーデータによる水温計が開発されている、喜界島で採取された浅海サンゴのボーリングコアと同一の試料を用いて、炭素凝集同位体の測定を実施している。炭素凝集同位体測定の測定誤差が想定よりも大きく、また測定装置の不調や緊急事態宣言に伴う実験の中断などでサンゴ骨格による測定条件決めが進行しているが、サンゴのボーリングコアと同一日時・地点で採取された、現生シャコガイ殻の炭素凝集同位体比の測定に進めておらず、計画が遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)シャコガイ殻の太陽暦キャリブレーション: シャコガイ殻の日輪形成のタイミングと日輪幅の変動要因を明らかにするため、長期飼育実験により殻の開閉とその継続時間を動体センサーで捉え飼育期間中の殻の日輪数と日輪幅を直接比較する。採取したシャコガイの飼育は本年度も継続し次年度に軟体部を速やかに 除去し殻を最大成長軸に沿って切断し薄片を作成予定である。光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡を用いて殻の日輪数と日輪幅を計測し、運動記録および環境記録と比較することで日輪および年輪形成を決定する要素の補正を行う。 2)化石シャコガイ試料の採取と年代測定: 日輪幅の変化により形成される年輪と炭酸カルシウムである殻の炭酸凝集同位体による水温の年変動を比較して年周期を得る。試料の薄片および電子顕微鏡観察、鉱物組成分析により続成過程の影響を検討し、殻形成時の初生値が保存された地球化学的分析用の試料を選別する。微化石群集組成、放射性炭素年代により化石試料の年代を決定する。 3)現生および化石の成長線解析と炭酸凝集同位体分析: 中期中新世(1000万年前)、後期中新世(500年前)、中期鮮新世(350 万年前)、後期更新世(6万年前)、完新 世(6千年前)、現生のシャコガイ殻を用いて、殻に記録される年周期すなわち公転周期の中に、日輪が何本刻まれているかを計測し過去の自転速度を復元する。 現在飼育しているシャコガイは、水温・照度ロガーを設置しており、薄片観察および殻の化学分析用から、年輪観察と炭酸凝集同位 体温度計を用いた絶対水温の年周期から、殻に刻まれる公転周期(一年間)を明らかにする。必要なシャコガイ殻試料が揃いつつあるため、上記のとおり遅延している年代測定と成長線解析を進め、復元される水温の一年周期の間に含まれる日輪の数から年間の日数の平均を求め、各年代で比較し地球の自転の減衰速度を見積もる。
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Causes of Carryover |
申請時に予定していた、シャコガイ試料採取のための海外(インドネシアおよびパプアニューギニア)への渡航が、世界的な新型コロナウイルス流行により昨年に引き続き実施できなかった。また、国内で試料採取は緊急事態宣言による制限もあったが、追加試料の採取をすすめることができた。殻体運動センサーの導入が引き続き遅れているため、使用相談とキャリブレーションの計画を再考し、必要なデータを取れる期間があるか検討し、導入を進める。本年度、新たに採取したシャコガイ殻試料と、これまでの先行研究で採取されている化石試料等の譲渡や使用許可を含め、手元に集まった試料の年代測定と成長線解析を現地の協力研究者との共同を図りながら加速する所存である。
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Research Products
(13 results)