2020 Fiscal Year Research-status Report
微小液滴と超短パルスレーザーによる新規質量分析法および金属クラスター合成法の開発
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20K21177
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
堀尾 琢哉 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40443022)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 質量分析 / 液滴 / 超短パルスレーザー / 金属クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,吐出量ピコリットルオーダーで発生可能な微小液滴とフェムト秒パルスレーザーを用いた新規ソフトイオン化質量分析法を開発する。これにより,1)極めて微量な試料溶液の質量分析を可能とし,2)マトリックスの調整が不要で,3)高速液体クロマトグラフィーとの組み合わせによるLC-MS自動解析が単一装置で可能となる。さらに,フェムト秒パルスレーザーの多様なパラメーター(強度,パルス幅,波長,チャープ量,偏光など)を調整し,目的イオンを高感度に観測する最適化が可能になる。以上の画期的な装置開発により,材料科学,生命科学,医療,医薬品開発など,広範な研究分野に資することが目的である。本研究提案は,微小液滴とフェムト秒パルスレーザーによる"非熱的過程"を利用した質量分析法であり,その際生じるイオン種の定性分析は申請者の知る限り行われていない。この意味で,本研究提案は真に先駆的であり,挑戦的研究としての意義がある。さらに同技術を用いて,金属イオンを含む微小液滴から,光還元法によって金属ナノクラスターを簡便に合成する手法の開発も探究する。 令和2年7月30日の交付内定後速やかに,本研究の基幹設備となるリフレクトロン飛行時間型質量分析器の設計を行った。本分析器は,微小液滴にフェムト秒パルスを照射した際に発生するイオンを大気中から高真空に導入し,溶媒を加熱除去したのちイオンを高電圧パルスにより加速し,その飛行時間を測ることで,イオンの質量電荷比を同定するものである。全ての設計を同年10月中に完了し,その後,専門加工業者に製作を依頼した。令和3年3月にイオン引き出しチャンバー,リフレクトロンチャンバー,加速電極群,イオンレンズ,イオンディフレクターが納入され,現在それらの組み立てを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は,初年度(令和2年度)にフェムト秒ファイバーレーザーの製作,次年度(令和3年度)にリフレクトロン飛行時間型質量分析器の設計と製作を計画していたが,資材調達や納期を考慮し,後者を優先させるため計画の前後を入れ替えた。令和2年7月30日の内定後から同質量分析器の設計を急ピッチで開始し,当該年度中に全ての部品が納入されたため,本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度前期:リフレクトロン飛行時間型質量分析器の質量分解能の評価を行う。そのために必要となるエレクトロスプレーイオン化源を自作する。数kVの高電圧を印加した注射針からリボフラミン(ビタミンB2)水溶液を正イオンモードで噴霧し,その飛行時間型質量スペクトルを測定する。プロトン付加体に帰属されるピークの半値全幅より,本分析器の質量分解能(M/ΔM)を評価する。さらに,溶液濃度を徐々に下げていくことでイオンの検出限界濃度を評価する。装置性能評価と並行し,フェムト秒ファイバーレーザーの製作を推し進める。 令和3年度後期:ピエゾ素子型の液滴発生ノズル(独国Microdrop Technologies社製,調達済み)から発生した微小液滴にフェムト秒パルスを照射し,クーロン爆発で飛散した微小液滴の一部を本質量分析計に導き,飛行時間型質量スペクトルを測ることで,本技術提案の原理実証を行う。その後,本技術の付加価値の探究を行う。フェムト秒パルスの尖頭値(ピークパワー)を変えることで,目的イオンの信号強度の最適化を行う。同様に,あえて目的イオン(分子量イオン)を分解させることで,その分解パターンから構造情報を得ることが可能か否かの検証を行う。令和3年前期の研究計画が予想通りに進まない場合は,例えばフェムト秒レーザーのデモ機を調達するなど,本研究期間内に原理実証まで到達できるよう対応する。以上の計画と並行し,硝酸銀水溶液の微小液滴にフェムト秒レーザーを照射し,飛行時間型質量スペクトルで銀クラスターイオンの生成を確認する。以上の成果を速報誌として取り纏め専門学術雑誌にて公表するとともに,国内および国際学会にて同成果を発表する。
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Causes of Carryover |
前年度に調達を予定していた物品が全て納品され,残額を次年度に必要な物品の調達費用としたため。残額分は真空部品などの消耗品の調達に充てる。
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Research Products
(3 results)