2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of molecular ropes that generate tension by chemical reactions
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20K21214
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
猪熊 泰英 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80555566)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 張力 / 歪みエネルギー / 大環状化合物 / ポリケトン |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪族ポリケトンから合成される張力のかかった分子として、環状のcalix[3]pyrroleと呼ばれる分子の合成に世界で初めて成功した。この化合物は、ポルフィリン類縁体の化合物の中で50年以上にわたって合成目標とされていた化合物であったが、分子内に大きな歪みエネルギーを有するために合成報告が全くなかった。本研究において、鎖状のヘキサケトン分子を環化させ、分子内でパール・ノール合成を使ったピロール環およびフラン環合成を行うことで、calix[3]pyrroleおよびそのフラン誘導体のcalix[3]furanを合成した。 calix[3]pyrroleは、分子内に小さな環サイズに由来する大きな歪みエネルギーを有することが、単結晶X線構造解析および量子化学計算の結果から解明された。そして、その歪みエネルギーは、C-C結合を容易に切断する化学反応に応用できることも分かった。calix[3]pyrroleを酸性条件に曝すと、わずか30秒のうちに98%以上が環開裂を起こしcalix[6]pyrroleという環サイズの大きな類縁体へと変換されることが分かった。これは、本研究においてひも状分子の張力を化学反応へと変換した最初の実例となる。 また、calix[3]furanでは同様な酸性条件下で芳香環であるフラン環の1つが容易に加水分解を受けることも見つけた。この反応は、3つあるフラン環のうち1つのみに起こることが分かった。反応前後の歪みエネルギーの解析から、この開環反応も歪みエネルギーの解放を駆動力としていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の段階で、calix[3]pyrroleおよびcalix[3]furanを実例として、ひも状分子の張力を駆動力とする化学反応が2つも見つかったことは計画以上の進展に値する。この反応では、究極目標の1つに挙げていた、C-C結合の切断および新たなC-C結合の形成が含まれている。また、得られたcalix[3]pyrroleは、大環状化合物やポルフィリン化学において50年来の合成課題として掲げられていた分子でもあるため、ポリケトンを用いる未踏分子の合成法としての価値も非常に高い。この成果は、現在、最高峰の論文雑誌への投稿間近である。 本年度得られた化合物を基軸として、多彩な張力による化学反応の創出が期待できることから、本研究によって得られる成果を上方修正できると考えている。特に、calixarene類縁体以外の環状化合物に対しても、ポリケトンを導入したパール・ノール合成によって張力をかける戦略が期待できると分かったことは、この研究コンセプトを広範な化合物へと展開するために重要な知見となった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究では、calix[3]pyrroleやcalix[3]furanをさらに誘導化し、calix[2]pyrrole[1]furanやcalix[1]pyrrole[2]furan、さらにチオフェンが含まれる大環状化合物を合成する。これらは、同様にタイトな環サイズに由来する歪みエネルギー(張力)がかかると期待される。その張力をさらなる環開裂反応やC-C結合の組み替え反応へと応用する。量子化学計算を用いて張力を定量化するとともに、分子内の結合解離エネルギーから、どの位置の結合が切断されるかを予測できるように理論体系も整理する。 さらに、ポリケトンを基盤とするひも状分子とパール・ノール合成を組み合わせて大環状化合物にひずみエネルギー(張力)を加える手法をカリックスアレーン型の分子以外にも広く適用する。特に、ペリレンなどのポリ環状炭化水素化合物に対して段階的に歪みエネルギーがかけられるよう、合成手法を確立させる。 また、研究期間の後半では、張力のAFMによる直接測定を行うために、HOPG基盤や探針への接合ユニットの合成デザインも進める。
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Causes of Carryover |
コロナ禍において、研究時間の短縮および参加予定の学会がオンライン開催となったことから旅費や消耗品費の支出が少なくなった。研究成果は予定通りに出せているが、次年度には本年度に行う予定であった原料合成を行うため消耗品費を繰り越した。また、学会の開催予定は不確定の部分があるが、オンサイト開催となれば、本年度分の旅費も使って積極的に成果発表を行う予定である。
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Research Products
(8 results)