2020 Fiscal Year Research-status Report
植物界の「シーラカンス」は超ストレス環境下でどのように生き延びてきたか?
Project/Area Number |
20K21315
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
和崎 淳 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (00374728)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中坪 孝之 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (10198137)
渡部 敏裕 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (60360939)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
Keywords | ミズスギ / 硫気荒原 / ヒカゲノカズラ科 / 強酸性土壌 / アルミニウム / 養分吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
硫気荒原とよばれる硫酸酸性土壌は、強酸性そのものに加え、溶出するアルミニウムの毒性、不溶化する金属元素の欠乏、硫化水素による呼吸阻害など、植物にとって多重かつ強烈な超ストレス環境である。本研究は、硫気荒原に純群落を形成するヒカゲノカズラ科のミズスギの示す特異な超ストレス耐性の解明に取り組む。ヒカゲノカズラ科はシーラカンスと同様にデボン紀に分化した起源の古い生物で、種子植物に基づく従来の常識とは大きく異なるストレス耐性機構を有している可能性がある。また、硫気荒原のミズスギ根の内部には特徴的な真菌が見出されており、未知の植物-微生物間相互作用によりストレス耐性を示す可能性についても追究する。 2020年度は、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い調査の機会が制限されたため、当初はこれまでに採取したミズスギの匍匐枝から株分けした個体を用いて水耕栽培する方法の確立に注力した。確立した水耕栽培法により、株分けした個体を対象に低pH、Alストレスに対する耐性を調査した。その結果、低pHおよびアルミニウムイオンに対して強い耐性を示すことと、クエン酸分泌による解毒能が高いことが示唆された。 2020年度末に鹿児島県内の硫気荒原および非硫気荒原において調査を実施し、ミズスギおよびこれと共存する植物を採取した。葉身のイオンプロファイルを調査するため、湿式分解を行ったのち、これに含まれる元素濃度の調査を開始した。硫気荒原特異的に共生する真菌の群集構造解析を実施するため、ミズスギ根からDNA抽出を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、調査の機会がかなり制約されたが、これまでに採取した個体を活用して水耕栽培法の確立に成功した。このことにより、胞子からの増殖が困難なミズスギを早期に栽培実験に供することが可能となり、研究が順調に推移した。その一方で、現地調査の機会が限られたことに伴い、植生調査については今後の進展が必要である。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに水耕栽培によりアルミニウム処理を施したミズスギの根からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を実施する。今後、さらに処理の種類を追加して生理応答と耐性の調査を進める。さらに、処理として低pH、Alストレス、硫酸イオン、H2Sなどの処理を可能な範囲で実施し、生育や根の伸長、呼吸量、元素吸収量、遺伝子発現プロファイルを指標にそれぞれの個別ストレスに対する耐性を明らかにする。 引き続き、九州地方の硫気荒原においてミズスギの分布を調査する。調査地としては大分県(別府~由布地域、九重地域)、鹿児島県(霧島地域)を候補とする。現地にて植物体を採取し、乾燥させた植物体に対してICPを用いた多元素一斉分析を行う。また、植物体そのものや、根分泌物等の代謝産物の分析により、金属元素耐性を評価する。また、根の形態や硫黄の動態に注目しつつ、形態学的な耐酸性機構を調査する。rRNAの間の領域(ITS)を対象に配列を解析し、分布域の拡大や進化について考察を行う。 ミズスギ根に共生する群集構造解析を実施するため、真菌のITS領域を対象としたアンプリコンシーケンスを行う。硫気荒原特異的に共生する真菌類の菌株を、ミズスギ根圏土壌あるいは根そのもの から単離・培養を試みる。培養に成功した場合、培養菌株自身の耐酸性を調査することに加え、ミズスギあるいはヒカゲノカズラへの接種実験を実施し、耐酸性との関連について調査する。
|
Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、現地調査に行く機会が極めて限られた。このことから旅費を中心に次年度に繰り越すこととなった。直近の調査を2021年3月にようやく行うことができたが、その解析に必要な経費は2021年度に執行する予定である。 2021年度は新型コロナウィルス感染症の落ち着いた時期を見計って集中的に現地調査を実施し、積極的に解析を進めていく計画である。
|
Research Products
(2 results)