2020 Fiscal Year Research-status Report
生分解性ポリマーPHBを高効率で分解する真菌由来新奇酵素に関する研究
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20K21324
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 晶 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (70396307)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 生分解性ポリマー / ポリヒドロキシ酪酸 / 真菌 / 分解酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道北斗市七重浜海岸で採集した海砂から、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)を唯一炭素源として増殖可能な分解菌SEA-51株を単離した。rDNA配列解析および顕微鏡観察の結果、本菌はVerticillium様菌類に属することを明らかにした。 SEA-51株は、PHBだけでなくグルコースを唯一炭素源とした培地でも増殖した。しかしながら、培養上清のPHB分解酵素活性は、炭素源としてPHBを加えた場合に限り検出された。この結果から、本菌のPHB分解酵素は、PHBにより誘導発現することが示唆された。 PHB含有培地で培養したSEA-51株の上清をPHBを含むSDS-ポリアクリルアミドゲルに供し、電気泳動後に室温でインキュベートすると、30分後には分子量約150,000に相当する位置に、PHB分解に伴う透明なハローが生じ、時間経過ともに大きくなった。一方、電気泳動前に試料を100度で15分間処理すると、ハローは24時間後でも生じなかったが、クマシーブリリアントブルー染色により、熱処理をしていない試料には見られない分子量約40,000と45,000の2種類のタンパク質が検出された。これらの結果より、本菌のPHB分解酵素は、ホモまたはヘテロサブユニット構造をもち、活性発現には高次構造の形成が必要であると推定された。 PHBを含む培養液の上清から、透析および限外ろ過を用いて分子量が80,000以下に相当する成分を除いた試料を粗酵素液として性状を評価した。その結果、本酵素の至適温度、同pH、および同NaCl濃度はそれぞれ40度、6.0、および200 mMであった。また、55度で30分間インキュベートすると残存活性は半減し、70度以上で同じ処理を行った場合には失活した。さらに、産業利用が進んでいる3-ヒドロキシ酪酸と3-ヘキサノエートの共重合ポリマーに対してもPHBと同等の分解活性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、計画していた実験については全て実施することができた。先に単離したPHB分解菌の種の同定、分泌酵素の基本性状解析、およびトランスクリプトーム解析については、当初の目的に沿った結果を得た。本菌によって生産されるPHB分解酵素が、2種類のタンパク質から構成される可能性については予測していなかったため、今後の研究については一部の修正と追加実験が必要となった。しかしながら、既知の同種の酵素ではそのような報告が無いことを考慮すると、研究の進展に伴って新しい発見が期待できる。以上の理由により、本研究課題の進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本菌のPHB分解酵素の一次構造を解明するために、目的酵素を構成する各タンパク質の精製を進め、部分アミノ酸配列を解析する。得られたアミノ酸配列をクエリとして、2020年度に構築した本菌のトランスクリプトームデータベースを検索し、該当する候補タンパク質の遺伝子配列情報を取得する。次いで、各遺伝子のcDNAクローニングを進める。翻訳領域全体をコードするcDNAをクローニングするために、RT-PCR法と必要に応じて5'-および3'-RACE法による遺伝子増幅を行い、目的タンパク質の全アミノ酸配列を明らかにする。 全長cDNAが得られたものについては、異種細胞発現系による組換えタンパク質の発現を試みる。ホストについては、目的酵素が分泌タンパク質であることと複数のタンパク質の同時発現を計画していることから、初めに昆虫細胞を使用する。目的酵素は、サブユニット構造をもつと考えられるが、異なるタンパク質から構成されているのかについては不明なままである。そのため、同一のタンパク質または複数の異なるタンパク質が同時に発現するシステムをそれぞれ構築し、組換えタンパク質を精製する。後者の場合には、それぞれのタンパク質に異なるタグ(ヒスチジンタグまたはFLAGタグ)を付加し、一方のタグを利用して組換え酵素の精製を行う。次いで、精製酵素をSDS-PAGEに供することにより、サブユニットを分離し、各タグに対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、PHB分解酵素のサブユニット構造を解明する。精製した組換え酵素を用いて、PHBやその類縁ポリマーの分解能を評価すると共に、PHBを基質として詳細な機能解析を進め、天然酵素と比較する。さらに、PHB分解によって生じる化合物について質量分析を行い、その構造情報を取得し、反応様式と最終分解物を明らかにする。
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Research Products
(1 results)