2021 Fiscal Year Research-status Report
生分解性ポリマーPHBを高効率で分解する真菌由来新奇酵素に関する研究
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20K21324
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 晶 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (70396307)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 生分解性ポリマー / ポリヒドロキシ酪酸 / ポリヒドロキシ酪酸分解酵素 / 異種細胞発現 / 組換え酵素 / 真菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、石油系プラスチックが地球環境や生態系に及ぼす影響が懸念されており、その代替素材として生分解性ポリマーの利用が注目されている。本研究では、それらのうちバイオマスが原料となるポリヒドロキシ酪酸(PHB)に着目した。先に、申請者は海砂からPHB分解能をもつ新しい真菌を単離した。同菌の培養液上清にはPHB分解酵素活性が検出されたため、その酵素の同定と性状解析を目的として研究を進めた。さらに、同酵素の遺伝子を用いて組換え酵素の大量発現システムの構築に取り組んだ。 PHBを含む培養液で本菌を培養すると、その上清中には2つの主要タンパク質(約35 kDaと40 kDa)がSDS-ポリアクリルアミドゲル(PAGE)上で検出された。これらのタンパク質を泳動前に加熱処理を行わなかった場合には、同じSDS-PAGE条件下では検出されず、約110 kDaのタンパク質が出現した。そのため、これらのタンパク質はSDSが存在していても複合体を形成できる可能性が示唆された。加熱処理後の各タンパク質について、N末端配列を調べた結果、それぞれ7アミノ酸が決定されたが、互いに一致しない配列であった。これらの実験と並行して、本菌からmRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いてトランスクリプトームデータベースを構築した。各N末端配列を照合した結果、それぞれ完全に一致するアミノ酸配列をコードするタンパク質の遺伝子が一つずつ見出された。次に、各cDNAのクローニングを行いアミノ酸配列を決定した結果、いずれもN末端側に分泌シグナルと予測される配列が存在し、PHB分解に必須と考えられる触媒残基も保存されていた。これらについて、昆虫細胞分泌発現系を構築し、組換えタンパク質を発現した結果、約40 kDaのタンパク質だけがPHBを分解できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画に従って研究を遂行し、適切な成果を挙げることができた。PHB分解酵素タンパク質は少なくとも2種類(約35 kDaと40 kDa)存在する可能性が示唆されたが、それらについて一次構造を決定しただけでなく、各タンパク質のcDNAを取得し異種細胞発現を試みた。いずれも分泌発現系が有効と考えられたため、それぞれのタンパク質について、ホストとしてブレビバチルス、酵母、および昆虫細胞を用いて分泌発現系を構築し、機能タンパク質の発現の有無を調べた。その結果、ブレビバチルスではほとんど発現が認められなかった。酵母を使用した場合では、一方のタンパク質についてのみ発現が確認できたが、大部分が分解された状態で分泌されており、酵素活性も検出できなかった。しかしながら、昆虫細胞ではいずれのタンパク質も分解されることなく発現し、組換えタンパク質を精製することができた。さらに、昆虫細胞で発現した各組換えタンパク質には天然のものと同様に自己集合しオリゴマー化する現象が見られた。また、精製した酵素のうち、約40 kDaのタンパク質にはPHB分解活性も検出され、基本的な酵素性状も明らかにした。その至適温度、同pH、および同NaClは、粗酵素として用いた培養液上清のものと同等であったことから、本菌のPHB分解酵素の同定とその組換え酵素の生産方法を確立できたと考えられた。 また、PHB以外の生分解性ポリマーの分解能について、各ポリマーを唯一炭素源として培養することにより調べた。その結果、石油を原料とするポリカプロラクトンやポリブチレンサクシネートも良く分解できることが分かった。また、代表的な生分解性ポリマーの一つであるポリ乳酸については、分解可能であったが試験を行ったポリマーの中では最も難分解性であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2種類のPHB分解酵素候補タンパク質のうち、一方がPHB分解活性をもつことが明らかになったが、もう一方についてはその機能は不明なままである。しかしながら、アミノ酸配列を比較すると両者は約55%の配列同一率であり、PHB分解に必須と考えられる4つのアミノ酸も保存されていた。そのため、今後はこれら2つの酵素が存在する意義について解明することが重要である。これを解明するためには、未だに明らかになっていない本菌の分解酵素によるPHB分解物の構造や重合度について調べる必要がある。すなわち、各組換え酵素を単独または混合してPHBに作用させ、その反応液中の水溶性分解物を薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、および質量分析により調べ、各酵素の作用機構を明らかにする。これらの酵素がPHB分解の際に、協働的に機能すると考えられた場合には、複合体形成の可能性についても検討する予定である。 不溶性PHBポリマーの分解試験は、これまで試薬として市販されている粉末状のものを用いてきたが、実際にはPHBまたはその類縁ポリマーは成型され使用されている。そのため、市販の生分解性ストローに対する組換え酵素による分解試験を行い、必要な酵素量や時間、温度、pHなど至適分解条件の検討を進める。 また、本菌はポリカプロラクトンまたはポリブチレンサクシネートを唯一炭素源とした培地でも良く増殖できることが分かった。この結果は、これらのポリマーに対応する分解酵素をもつことを示唆していることから、分解酵素の同定に取り組む。すなわち、各培養液上清中に含まれるタンパク質の分析とその知見に基づいてトランスクリプトームデータベース上での該当するタンパク質を探索する。 以上の結果を総括することにより、海砂から単離した新規真菌の生分解性ポリマーに対する分解酵素の特徴とそれらの有効利用法について提案する。
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Research Products
(2 results)