2021 Fiscal Year Research-status Report
陸域・海域エコトーン部の地中浅所の緩衝水域:その形成条件特定と生態学的機能解明
Project/Area Number |
20K21337
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
鬼倉 徳雄 九州大学, 農学研究院, 教授 (50403936)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 彰彦 九州大学, 農学研究院, 助教 (50814662)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 塩分 / 間隙水 / 汽水 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、陸域と海域の境界部の地中浅所に、塩分が安定した汽水域が形成されることを明示し、異なる立地条件の野外での観測に基づき、その形成条件を特定することにある。そして、その緩衝水域の生態学的機能を解明することにある。2020年度に、背後地が山林である場所、背後地が平野である場所とも、表層海水は潮の干満に伴い変動するのに対し、間隙水は低塩分で安定することを確認できた。 2021年度は、観測間隔を密にして長期的観測を試みた。表層海水は1日2回の干満に対し、潮位が大きく下がる干潮時のみ塩分が低下し、また、長潮・若潮にかけて塩分は低下しなかった。間隙水については、山側、平野側ともに、これまでと同様に、表層水よりも低塩分で安定する傾向を示したが、季節により塩分は異なっていた。 これらの現象の影響要因を明示するため、塩分の日最低値と最高値、潮位の日最低値、日最高値、降水量の当日、前日、10日間量を調べ、相関関係を解析した。その結果、表層水の塩分最低値は、潮位最低値に正、潮位最高値に負、10日間雨量に負の関係性を示した。この結果は、潮が大きく動く日および最近よく雨が降ってるってときに塩分が低下することを意味した。表層水塩分の最高値は、降水量関連の全てに負の相関を見せ、降水の影響を顕著に受けることが明確化できた。間隙水については、最低値も最高値も潮位最低値、潮位最高値と相関がなく、潮の満ち引きに関係しないことが明らかとなり、安定性を裏付ける結果となった。ただし、平野側は前日雨量、10日間雨量と負の相関を示し、現在より前の降水の影響を受けることが示された一方、山側は降水と無相関で、それ以外の要因に左右される可能性が示唆された。 生物相(ベントス類)については、過去に行った調査結果を再整理し、山側、平野側の相違点について予備解析して、おおむね、傾向を明らかにできた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2年目の計画では、初年度の結果に基づき、年4回程度の詳細調査を実施することとしていたが、実際は年6回の詳細調査を行い、想定以上に研究が進捗した。具体的には、表層水と間隙水の塩分に影響を与える具体的な要因を、山側間隙水を除いて、全てで明らかとできた点である。 また、最終年度に計画していたベントス相について、過去の調査結果を整理して、山側と平野側のベントス相比較も予備解析をすることができた。具体的には、低塩分で安定している山側の種多様性が高い一方、低塩分が維持されているため、塩分を好むアサリが出現しないことなどを突き止めた。 これらの結果は、当初計画以上の進展であると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度は、生物群集(主に、ベントス類)について広域スケールでの調査を実施する。津屋崎入り江だけでは環境特性に偏りが出る可能性が高く、瀬戸内海側や筑前海側のエコトーン域にも足を運び、塩分と生物の両方を取得する。最終的に、間隙水塩分と生物群集との関連性を解明し、その生態学的機能に迫る予定である。
|
Causes of Carryover |
初年度に物品購入を多く計上していたが、以前に購入した古い塩分ロガーが再利用でき、新規に購入する必要が少なくて済んだため、使用額に差異が生じている。ただし、令和3年度より電池切れや感度低下などが見られたロガーを随時更新している。令和4年度もロガーの更新は必要であり、当初計画程度の物品購入費に最終的には達するものと見込んでいる。 また、津屋崎入り江での調査については、生物サンプルの分類を自分自身で行えるレベルの種群しか採集されなかったため、外注分析等を行っていない点も、差異が出ている理由の一つである。最終年度は、広域調査を実施するので、DNAシーケンスなど、外注分析は必須となる。そのため、これまでの繰り越し分と令和4年度予算を合算した研究費の使用を予定している。
|