2020 Fiscal Year Research-status Report
Characterization of sleep in brainless jellyfish, Cladonema radiatum
Project/Area Number |
20K21421
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
立花 和則 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (60212031)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 抹消睡眠 / SIK3 / エダアシクラゲ / 刺胞動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
睡眠は健康な生活に必須で、特に脳の休息に重要であるとされるが、その制御の分子的機序は不明の点が多い。中枢神経(脳)の無い散在神経系をもつのみのエダアシクラゲにも睡眠が存在することは、睡眠は、脳のみでなく、末梢においても何らかの役割を果たしていることを示している。私たちはクラゲの睡眠を「末梢睡眠」と名付け、本研究はこの末梢睡眠を明らかにすることを目的とする。クラゲの末梢睡眠は哺乳類などの睡眠とどう関係しているのだろうか?表面的な類似した現象にすぎないのか、それとも多くの動物の睡眠に共通の進化的に保存された分子基盤が存在するのだろうか?最近、応募者らのゲノム解析により、クラゲのゲノム中に、マウスで「眠気」を制御する鍵となる重要な遺伝子SIK3のオーソログが見つかった。このことはクラゲの末梢睡眠は哺乳類の睡眠に共通の分子基盤が存在することを示唆している。そこで、(1)クラゲの末梢睡眠は行動的にどれほど哺乳類の睡眠に共通しているかを調べる。次に(2)クラゲの末梢睡眠において、マウスで睡眠と覚醒の制御に重要なタンパク質であるSIK3分子の動態を解明する。今年度は、(1)の行動学的な解析のための実験系の整備、睡眠を阻害する刺激の条件の検討やクラゲの行動を記録する画像取得とその解析のソフトウエアの開発などを行った。(2)については、睡眠と覚醒の制御のカギとなる重要な分子であるSIK3タンパク質に対する抗体の作成を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)クラゲの末梢睡眠は行動的にどれほど哺乳類の睡眠に共通しているかを調べる。これに関しては、睡眠の行動的な性質として、以下の3つあげられる。①休止状態と活動状態の周期的な交代、②休止状態での刺激に対する反応性の低下、③強制的に休止状態を阻害した後の休止期間の延長(これは徹夜などをした後の睡眠が長くなる、いわゆるリバウンドという現象)。①に関しては、エダアシクラゲでは明らかに昼に活動し、夜に休止するサイクルが見られる。②に関しては、今回、1時間おきに一定の振動刺激を与えて、クラゲの反応を観察したところ、刺激に対する応答性に周期性が見られた。また、全個体が常に応答する強さの刺激をあたえると、休止期を阻害できることが分かった。このような刺激を継続的に与える方法により、③のリバウンドがどのようになるかデータを収集しているところである。(2)クラゲの末梢睡眠において、マウスで睡眠と覚醒の制御に重要なタンパク質であるSIK3分子の動態を解明する。SIK3はリン酸化により活性を調節されており、このリン酸化状態を検出することが必要である。そこでエダアシクラゲのSIK3の活性化したリン酸化状態(このリン酸化部位はクラゲからヒトに至るまで高度に保存された配列であり、プロテインキナーゼAによりリン酸化を受ける)を認識する抗体(1種類)と通常の抗体(2種類)を作成した。これらの抗体を用いて、エダアシクラゲの内在性のSIK3タンパク質を検出しようと試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)クラゲの末梢睡眠は行動的にどれほど哺乳類の睡眠に共通しているかを調べる。クラゲの睡眠の行動学的解析においては、現在の実験系では一度に取れるデータが少ない(6匹のクラゲを同時に解析)ので、同時に12匹、24匹のデータの取れるように実験系を改良しているところで、それに対応できるようにするために画像解析のソフトウエアも修正しているところである。また、エダアシクラゲの睡眠様行動はクラゲの遺伝的系統、齢、摂食の状態、光条件などにより影響を受けるため、これらの条件を検討し、最適条件を探している。また興味深いことにクラゲの系統、性により休止期を解除するのに必要な刺激の強さが異なること、すなわり、睡眠の深さが遺伝的に異なり、性差が大きいことが判明しつつある。この発見は睡眠の深さの遺伝的制御を明らかにできる可能性を示すものであり、今後、この方向での研究を進展させていきたい。(2)クラゲの末梢睡眠において、マウスで睡眠と覚醒の制御に重要なタンパク質であるSIK3分子の動態を解明する。エダアシクラゲのSIK3タンパク質に対する抗体は、抗原ペプチドに関しては十分な力価を持っていることが分かったが、まだ内在性のSIK3タンパク質を検出できる条件を見いだせていない。今後は、より高感度の抗体の検出試薬をもちいることや、エダアシクラゲの抽出物を抗SIK3抗体で免疫沈降して、標的を濃縮することなどにより検出を試みる予定である。また、抗体での検出の試みと並行して、SIK3のin situ hybridizationにより、mRNAの局在を検出し、組織でのSIK3タンパク質の発現を調べる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、当初の計画では、いろいろな睡眠の状態のエダアシクラゲについてRNAseqを予定していたが、これまでの実験の結果、エダアシクラゲの系統間で睡眠の性質に違いがあることが判明し、今年度は系統間の睡眠行動の違いを詳しく調べて、比較し、そののちに必要なRNAseqを来年度に行うことにしたことである。これは拙速にRNAseqを行ってしまうと、重要な睡眠の状態のデータを取得しそこなう可能性があるので、慎重な予備的実験が必要であると判断したことによる。そのため、来年度に今年度使用予定だったRNAseqの助成金を使用する計画に修正した。またその他の理由としては、購入予定であったインキュベーター(250リットル)は容量が大きく、大量のクラゲを飼育できるが、実験条件を変えて多くの実験を並行して行うには不向きであったため、小型のインキュベーター(40リットル)に機種を変更し、来年度以降に台数を増やして購入することとしたことである。
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