2020 Fiscal Year Research-status Report
河川性魚類の行動と生活史の統合戦略:PITタグシステムを駆使した探索的研究
Project/Area Number |
20K21439
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岸田 治 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (00545626)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 健太郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (30373468)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 生活史 / 行動 / サケ科魚類 / 個体追跡 / ビッグデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は6月と10月に大規模採捕調査を実施した. 電気ショッカーを用いて,幌内川の上流域5.3kmの調査区間において魚を徹底的に捕獲した. 捕獲したサケ科魚類はサイズと成熟を調べ,形態分析用の写真を撮影し,ヒレの一部をDNA試料として採取した後, 捕獲地点に放流した. 尾叉長が6cm以上の個体すべてにPITタグを装着し個体識別した. 個体の生息場所と移動を,PITタグ読み取りアンテナで調べた. 得られたデータを,2019年度以前に取得したデータと合わせて分析した.分析の結果,サクラマスにおいてサイズ依存の選択的死亡圧が海洋生活をする個体(降海型)が海に降る時期に作用していることが明らかとなった.同時期,河川に残留する個体(残留型)には同様のサイズ依存選択が作用していなかったことから,サケ科魚類は小さなサイズで川を下ると高い死亡のリスクを被ることが示唆された.さらに,降海型においてはサイズが小さな個体は大きな個体に比べて海に降るタイミングが遅いことや,川を下る速度も低い傾向が認められた.この傾向はサケ科魚類幼魚における生活史依存型の行動戦術の新しい知見になりうる. 個体モニタリングを実施している5.3kmの調査区間全体に渡って,10mスケールでの物理環境測定を実施した.水深と流速を10mの小区間ごとに9地点で計測するとともに,瀬淵の比率や水面を覆う構造物の割合(カバー率)を測定した.これらのデータは魚類の行動や生活史,密度に関する今後の分析において,共変量データとして用いる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査は計画通り実施している.ビッグデータのためデータの整理に時間がかかっているが,部分的にまとめられたデータの探索的分析から,サケ科魚類の生活史戦術に関する重厚な成果や新知見が得られており,当初の目標を達成しつつ順調に進捗している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで通り,春と秋の年2回の大規模調査を実施するとともに,毎月の行動調査も継続して行う.2020年度にサクラマス幼魚の降海速度について未知のパターンが示唆されたため,今年度も継続的に調べ,同様のパターンが見られるかを確かめる.2020年度のサイズ依存選択についての成果については,すでに論文執筆を開始しており,2021年度中の受理を目指して早期に投稿する.大規模データの分析をさらにすすめる.例えば,複数のサケ科魚類の分布や成長について物理環境データも用いた分析を行うなどし,サケ科魚類の行動と生活史の統合戦術として解釈可能なパターンの探索を試みる.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大を受け,海外の共同研究者の招聘ができず,積算していた旅費を使用しなかった.研究の進捗に伴いモニタリングに必要な機材や消耗品が新たに必要になったこと,収集している大量サンプル処理の作業補助を要することから,繰越分はこれらに充てることで研究を大きく発展させていく.
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