2020 Fiscal Year Research-status Report
超高感度な光学的磁気センサによる新原理の次世代ニューロイメージングへの挑戦
Project/Area Number |
20K21560
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 哲生 京都大学, 工学研究科, 教授 (40175336)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
Keywords | 光ポンピング / 原子磁気センサ / MRI / 神経磁場 / MEG |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は大きく分けて2つある。一つ目は、従来用いられてきた超伝導量子干渉素子に代わる超高感度の光ポンピング原子磁気センサ(OPM)を開発し、それによって多チャネル脳磁図(MEG)計測を実現することである。二つ目は、このOPMを用いて神経磁場を磁気共鳴信号変化として直接捉える新原理の機能的MRI(fMRI)を実現し、MEGとの同時計測を可能とする次世代のニューロイメージングへの道を拓くことである。 初年度は,まず我々が世界に先駆けて開発してきたKとRbの2種類のアルカリ金属原子蒸気を混合したハイブリッド型OPMによるMEGの多チャネル同時計測に向けて,理論的・実験的検討を進めた。MEGでは、通常脳内の信号源推定のために多チャネル同時計測を行うが、センサ特性の揃った小型OPMモジュールを複数用意することが困難である。本研究では、一つの大きなセンサセル内に複数の計測点を設けることによりセンサ特性の揃ったK-Rbハイブリッド型OPMを用い、被験者の開眼閉眼によるα波帯域の事象関連脱同期と、聴覚誘発脳磁界の10点同時計測を実施し、ハイブリッド型OPMによる多チャネルMEG同時計測の有用性を示した。 以上と並行して、新原理のfMRIの実現に向け、永久磁石型の0.3T-低磁場MRI装置を用いた原理検証の検討を進めた。この新たなfMRIには、MRI撮像シーケンスの一つであるスピンロックシーケンスを適用し、スピンロック用に印加する静磁場によって生ずる2次的核磁気共鳴現象を利用することで極低周波数の神経磁場を捉えようとするものである。本研究では、頭部を模したファントムを用いた実験的・理論的検証を行い、脳神経磁場の直接計測の実現可能性を示すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載の通り,光ポンピング原子磁気センサ(OPM)による脳磁図(MEG)の多チャネル計測については,KとRbのハイブリッド型によりその実現可能性を示すことができたこと,また神経磁場を直接MRIの信号変化として捉える新原理の機能的MRIの実現可能性についても0.3Tの低磁場MRI装置を用いたファントム実験により示すことができたことなどから,おおむね順調に計画した研究内容が達成できていると言う事ができる.
|
Strategy for Future Research Activity |
OPMによるMEGの多チャネル計測に関しては2つの方式が考えられる。一つは光ファイバや光学系などを一体化した小型のOPMモジュールをアレイ化する方式、他は本年度に実施した一つの大型のガラスセル内に多点の計測点を設ける方式である。次年度は、引き続き大型のガラスセル内の多点同時計測法の確立を進めると共に、OPMモジュールの小型化を実現し、そのアレイ化を進める計画である。 ここで、OPMにより安価なMEG計測システムが開発できても、既存の高価な磁気シールドが必要であれば次世代のニューロイメージングシステムとしての普及の妨げとなる。そのため、本研究では今後、簡易磁気シールド環境下でのMEG計測の実現を目指した新たな方式のOPMに関しても理論ならびに実験による検討を行う。具体的には、地磁気を想定した数十μTの環境下で高感度動作が期待できるスカラー型OPMのBloch方程式に基づく数値シミュレーションと実測による検討を行って行く。 さらに、今年度0.3T-低磁場MRI装置を用いて原理検証を行った新原理のfMRIについて、MEG計測との同時計測が可能な共通のOPMを受信用のセンサとする超低磁場MRIにより実現すべく、シミュレーション並びに実験による基礎的検討を進める。 なお,以上の研究成果については、そのつど論文や国際会議等での発表などにより公表すると共に、最後に研究全体の総括を行って研究を完結させる。
|
Causes of Carryover |
(理由)本年度は、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、予定していた学会発表並びに調査のための国内外への出張を自粛したことに伴い旅費が未使用となった、また感染予防の観点から予定していた実験補助の依頼を行うことを避けたため、その人件費・謝金が未使用となった。さらに科研費の採択決定ならびに交付の時期についても4ヶ月遅れたことに伴い、予定していた実証実験に必要な物品費の比重が次年度で当初の予定より高くなると見積もられることから、その分を繰り越すことになった。
(使用計画)次年度の研究費については項目毎に以下の様に使用を計画している。物品費については、光ポンピング原子磁気センサの高度化のための試作および検証実験の遂行に必要な電子回路部品、光学部品、研究遂行に必要な書籍や研究会資料代などを合わせ230万円、旅費については,研究成果の発表,資料収集,調査のために合わせて38万円、実験補助に対する謝金には20万円、その他として国際会議・国内会議の参加費、英文校正、オープンアクセス経費などに40万円を使用する予定である。
|