2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of a novel therapeutic drug for the treatment of heart failure by cell protection
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20K21600
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
尾野 亘 京都大学, 医学研究科, 准教授 (00359275)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | ATP / 心不全 / 心筋梗塞 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在の心筋梗塞の治療には、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が行われるが、PCI後の再灌流障害、更には心不全の際に生じる心筋細胞死を標的とした治療法は皆無である。VCP (valosin-containing protein)は、細胞内の主要なATPaseであり、VCPのATPaseの阻害剤(KUS121)は、細胞内のATP減少と細胞死を抑制する作用がある。KUS薬はブタ心筋梗塞モデルにおいて、梗塞巣を63%低下させた (Ide-T, *Ono-K et al. JACC Basic Transl Sci. 2019;4:701-14)。本研究においては、さらに心不全に対する治療効果およびその作用機序を検討することが目的である。 現在までの検討において、大動脈縮窄(Thoracic aortic constriction; TAC) 手術直後からKUS121を毎日腹腔内投与すると心肥大が改善されること、また心不全期から毎日腹腔内投与すると心機能の低下が抑制されていることが分かった。そこで、KUS121がATP上昇作用をもつことに着目し、KUS121を投与することで強心作用があるのではないかと考えた。実際に、TAC手術後8週間経過し、心機能が低下したマウスに対してKUS121を投与すると投与直後から左室収縮能の改善を認めることを心臓カテーテル検査および心臓超音波検査で確認した。またエネルギー効率を測定するため心筋MRスペクトロスコピーを行ったところ、KUS121投与後にPCr/ATP比が改善するという結果を得た。以上のデータからKUS121が心臓のエネルギーを上昇させ、左室駆出率を改善することが分かった。 したがって、KUS121は慢性心不全のみならず、急性心不全に対する効果もあることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究においては、KUS121の心不全に対する治療効果およびその作用機序を検討することが目的である。 現在までの検討において、大動脈縮窄(Thoracic aortic constriction; TAC) 手術直後からKUS121を毎日腹腔内投与すると心肥大が改善されること、また心不全期から毎日腹腔内投与すると心機能の低下が抑制されていることが分かった。組織的には線維化の減少も伴っていた。 そこで、KUS121がATP上昇作用をもつことに着目し、KUS121を投与することで強心作用があるのではないかと考えた。実際に、TAC手術後8週間経過し、心機能が低下したマウスに対してKUS121を投与すると投与直後から左室収縮能の改善を認めることを心臓カテーテル検査および心臓超音波検査で確認した。またエネルギー効率を測定するため心筋MRスペクトロスコピーを行ったところ、KUS121投与後にPCr/ATP比が改善するという結果を得た。以上のデータからKUS121が心臓のエネルギーを上昇させ、左室駆出率を改善することが分かった。さらに、中型動物において血行動態変化を測定するための予備実験として、KUS121投与後の血中および臓器でのKUS121濃度を質量分析において計測した。 以上の結果から、KUS121は慢性心不全のみならず、急性心不全に対する効果もあることが判明した。 今後、さらにそのメカニズムの詳細について検討を続けるとともに、中型動物において血行動態変化を測定し、臨床応用へと進む。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究目標としては①KUS121の強心作用の詳細なメカニズムの解明および、②KUS121の投与により全身の血行動態にどのような影響を与えるかを解明することである。 ①強心作用のメカニズムの解明:KUS121を持続的に投与することによる遺伝子発現の変化(RNAシーケンス)、さらにはタンパクのリン酸化、ユビキチン化に着目して調べる予定である。一方、VCPのATPase活性低下自体が心機能の改善効果になる可能性もあるため、VCPのATPase活性が上昇する変異を持つモデルマウス(B6;129S-Vcptm1Itl/J)を導入した。この遺伝子改変マウスにTAC手術をすることで心機能が野生型マウスに比べて悪化するのかどうか、また、悪化した場合にKUS121投与が心機能悪化を抑制するような効果があるかどうかを検討する。 ②KUS121による全身の血行動態の変化の検討:血行動態への効果を明らかにするために、中動物の心不全モデルにおけるKUS121投与を行う。高頻度ペーシングによる心不全モデルビーグル犬を用いて、左室内にPV loop測定用のカテーテル、右心系にはスワンガンツカテーテルを留置することでKUS121投与後に心機能の改善があるかどうか、肺うっ血が解除されるかどうかを評価する。また、冠動脈と冠静脈洞から同時採血し、心筋酸素消費量も測定する。その上で、KUS121の投与量を時系列で変化させ、さらに血中濃度を測定することでKUS121が効果を呈するのに必要な血中濃度、強心作用に必要な投与量を決定する。ビーグル犬でのカテーテル実験においては既存の強心薬による血行動態の変化も測定し、両者を比較する。
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Causes of Carryover |
中型動物でのカテーテル試験が次年度になったため。
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