2020 Fiscal Year Research-status Report
低磁場核偏極NMRと深層学習によるon siteメタボローム診断
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20K21873
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松元 慎吾 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (90741041)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 超偏極NMR / メタボローム / パラ水素誘起偏極 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの疾患は何からの代謝変容を伴い、血液や尿中に含まれる数百種類の代謝物濃度を網羅的に計測するメタボローム解析により、多様な疾患が特定できることは無数の臨床研究報告からも自明である。しかしながら、一般にメタボローム解析には質量分析や高分解能NMRなどの大掛かりな装置と、数時間に及ぶ測定時間、煩雑なデータ解析が必要であり汎用の臨床検査ツールとしての利用には至っていない。本研究では、常温低磁場核偏極技術により得られるNMR信号の数万倍の高感度化を利用して、生検中の代謝物群をまとめて励起し、その超高感度を活かしたNMRによる高速メタボローム診断法の開発を進めている。 初年度はまず、エネルギー代謝のカルボン酸を含む代表的な代謝物について、パラ水素誘起偏極により励起できる誘導体化プロセスについて、複数の異なる反応系で誘導体化効率を検証した。作成した代謝物誘導体を用いて、マイクロチューブを用いて作成したフロー型の励起システムで超偏極1H誘導および13Cへの分極移動をテストし、1.5Tの卓上NMR装置において2万倍以上の13C NMR信号励起を確認した。パラ水素付加反応効率の改善のため、パラ水素ガスのマイクロバブル化の検証を予定していたが、必要部品の納期が大幅に遅れたため2年度目に検討する。また、教師学習データを得るための疾患モデルの作成を開始し、担がん、老化、肝障害、脂肪肝炎、心筋梗塞のモデルにおいて通常の1H MRI撮像および組織化学等により疾患モデルの症状を確認した。13C偏極率や反応の自動制御システムの構築など13C励起システム自体の性能向上も同時並行で進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は新型コロナウイルスの影響により、研究活動が夏季まで制限され、物流や海外工場の停止に伴い必要部品の納品が大幅に遅れるなどの想定外の支障があり、全体として当初の研究計画から3-4ヶ月の遅れが生じている。初年度となる令和2年度は、まず主要なエネルギー代謝物の多くに含まれるカルボン酸を標的に、最も縦緩和時間が長く超偏極状態が持続するカルボニル炭素へ選択的に超偏極誘導するための誘導体化について複数の異なる反応系で条件検討を行った。作成したいくつかの主要なグルコース代謝物誘導体において、マイクロチューブを用いて作成したフロー型の励起システムで、パラ水素誘起偏極法による超偏極1H誘導および13Cへの分極移動をテストし、1.5Tの卓上NMR装置において2万倍以上の13C NMR信号励起を確認した。パラ水素付加反応効率の改善のため、パラ水素ガスのマイクロバブル化の検証を予定していたが、必要部品の納期が大幅に遅れたため2年度目に検討する。 本研究では一般病院での汎用に不適な高分解能NMRによる代謝スペクトル分離の代わりに、複雑に重なったNMRスペクトルから機械学習で診断を付ける手法の開発を目指している。このコンセプトの検証に必要となる教師学習データを得るための疾患モデルの作成を開始し、担がん、老化、肝障害、脂肪肝炎、心筋梗塞のモデルにおいて通常の1H MRI撮像および組織化学等により疾患モデルの症状を確認した。LC/TOF-MSを用いたメタボローム解析により疾患毎の代謝変容を確認する予定でいたが、停電による装置故障の修理に3ヶ月を要したため、2年度目に先送りする。13C偏極率や反応の自動制御システムの構築など13C励起システム自体の性能向上も同時並行で進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス禍により初年度に実施できなかった部分が多いため、詳細な条件検討を簡略化し、原理検証を確実に達成できることを優先して2年度目の研究を進める。内因性の代謝物をパラ水素誘起偏極にて励起するためには、不飽和誘導体化と特殊なイリジウム触媒を用いるSABRE型の反応を用いる2つのアプローチがある。誘導体化については、初年度は代謝物単体での誘導体化効率を検証したが、2年度目では代謝物の抽出溶媒中で、既知の複数の代謝物混合溶液での誘導体化を検討する。一方で、励起効率は劣るが弱い分子間相互作用を利用した分極移動により誘導体化を必要としないSABRE型のイリジウム触媒による励起効率も確認するが、SABRE型は1H-13Cの分極移動装置が開発する励起装置の仕様では実施できないため、最終的な実用性評価までは本研究では予定しない。 装置故障により初年度に実施できなかった各種疾患モデルの血液を用いた、LC/TOF-MSによるメタボローム解析により各疾患に特徴的な代謝物変容を選別する。それらの代謝物の混合溶液を作成し、励起装置に掛けることで混合溶液の超偏極1H/13C NMRスペクトルを卓上NMR装置で得る。それらの各疾患の特徴を抽出した代謝物混合溶液のNMRスペクトルを機械学習に掛け、疾患が高い特異性と感度で検出できるよう機械学習のパラメータの調整を行う。これら擬似的な代謝物混合溶液で疾患が区別できたら、実際の疾患モデル動物から得た血液サンプルを用いて同様の条件検討を実施し、提案する診断技術の原理検証まで完了することを目指す。
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Causes of Carryover |
挑戦的研究(萌芽)は採択発表時期が遅く、元々初年度の実質的な研究期間が短い中で、新型コロナウイルスの影響により、研究活動が夏季まで制限されていた。また、新型コロナウイルスによる海外工場の停止に伴う国内在庫切れや物流遅延により、必要部品の納品が予定より3ヶ月ほど遅れるなどの研究提案時には想定していなかった支障があり、全体として当初の研究計画から3-4ヶ月の遅れが生じた。 初年度できなかった研究内容は2年度目に実施し予算も概ね研究計画通りの内容に使用するが、初年度で生じた遅れを取り戻すため、短期間の研究補助員の雇用への使用も予定する。
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